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水と黒帽子(1) ページ40
もう手も足も動かない。
水面から差し込む光が、やけに印象的だった。
その光が、ふと陰る。
泡が立ち込めて、誰かが私の体を抱えて水面に出る。
目を開けるのも億劫だった。
「A!おい!起きろ!!」
「中原幹部!芥川先輩も目を覚ましません!」
「チッ…樋口!芥川の応急処置してろ!」
不意に唇に何か柔らかいものが押し当てられた。
僅かに開いた隙間から、勢いよく空気が入ってきた。
肺の内容量を越え、私は海水と共に空気を吐き出した。
濃度の高い塩分が喉を焼く。
私は何度か咳き込んだ。
薄らと目を開く。
「ッ…!A!判るか!?」
「……ぅ……ちゅ……………や……」
視界いっぱいに、中也の切羽詰まった顔が映り込む。
中也は私を思い切り抱き締めた。
ちょ……く、苦し……
「……………ッ………良かった……手前が無事で………」
水分を纏って冷えた体に、中也の体温が心地良かった。
私はそっと中也の頭に手を乗せた。
中也の濡れた髪をくしゃくしゃとかき混ぜる。
「………ごめん……」
私はゆっくりと目を閉じた。
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作者名:コレット | 作成日時:2018年8月4日 20時