好きやろ-kn ページ27
.
ずっと気が付かないふりをしていた。気付いてしまったら、その気持ちに向き合わなくちゃいけないから。純真無垢なその想いに、ただ一心に好きだという優しい感情に。でも、その気持ちに応えるには私はあまりにも打算的で、愚かだ。本当は喉から手が出るほどにその気持ちが欲しくて欲しくてたまらなかった。
だけど、邪魔をするのだ。彼に近付いた当初の自分が、嘘ではないから。
「なあ、A。いつ仕事辞めんねん」
「……またその話？」
「なかなか具体的な話せんからな」
お金が欲しかった。だからこの道に足を踏み入れて、毎晩数人の知らない男の欲を満たして、たまに酷いことも言われるし、説教もされるし、「女はいいよな」なんて嫌味も笑って受け流して。それでも辞めなかった。借金があるとか、のっぴきならない理由があるわけじゃないのに、辞めなかった。
だって、お金は裏切らないから。対価を支払えば必ず答えてくれる。他の何よりも信じることが出来て、揺らがないものだ。欲しいものはお金で買えるから。気持ちなんか必要なかったから。
だから、だから彼を手放さなかった。羽振りが良くて、嫌なことはしない。ただ淡々と欲を発散して、たまに高価なものをくれる。それが必要ないものだったとしても、それを売ってまたお金になる。そしてそのことを咎めたりしない。「そうなんか、ほな次は別のもんにするわ」なんて、平然と言ってまた別のものを持ってくる。
そんな関係が心地良かった。自分を偽らなくてもいい相手に、初めて出会ったから。だから、仕事以外でも会うようになったし、お店で出来ない所謂本番行為も、彼なら何故か許せた。他の客は目的が透けているから、決して許したことはなかったのに、何故だか彼だけは。
どうかこの関係が続きますように、と願っていたのに、いつからか彼の瞳には感情が見えるようになって、その感情がまたどうしてだが心地良くて。彼の家で、彼が本を読む隣で何もせずに時計を眺めるだけのその時間が、たまに思い出したように頭に触れるごつごつした大きな手が、寄り掛かれば香ってくる煙草の匂いが、私を見つめる瞳が、彼の隣が心地良くなってしまった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 260人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
しゃち(く)(プロフ) - じばくとっこうたいさん» ありがとうございます😭いくつかストックはあるので、また出没させていただきます！笑 お付き合いありがとうございました！ (2022年10月11日 16時) (
レス) id: 2310bd35ff (このIDを非表示/違反報告)
じばくとっこうたい(プロフ) - 完結おめでとうございます！いつも更新楽しみにしていました。またしゃちさんが出没するのをお待ちしております💕 (2022年10月10日 22時) (レス) @page50 id: 8209a7a990 (このIDを非表示/違反報告)
限界オタク(プロフ) - 無理です好きです😵💫😵💫尊いです( ;ᯅ; )ありがとうございます😇愛してます🫶🫶 (2022年8月30日 2時) (レス) @page37 id: b13d58c823 (このIDを非表示/違反報告)
しゃち(く)(プロフ) - 抹茶ちよこさん» ありがとうございます🥲💖甘くなっているか不安な話も多々あるので安心しました😭これからも頑張ります！ (2022年8月12日 14時) (レス) id: a7bca30866 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶ちよこ(プロフ) - コメント失礼致します。しゃちさんの甘いお話は本当に胸がほっこりして、幸せな気分になります。いつも素敵なお話をありがとうございます。 (2022年8月12日 11時) (レス) id: 68848dd40a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しゃち(く) | 作成日時：2022年8月8日 22時
