03 ページ3
舞台役者の中には、「アイドルは顔だけで舞台の主演を取るから迷惑」という、舞台芸術全ての価値を下げかねない言葉を述べる馬鹿もいる。
「丈」
「…お疲れ」
「お疲れはお前やろ」
115分の1人芝居なんて、どれだけ才のある舞台役者でも悲鳴をあげるものだろう。
というより、成立するのかすら怪しいレベルだ。
きっと、いや絶対藤原は寝食削る想いをしてこの舞台に挑んだ。
それでも結局、彼に向けられる感想は「かっこいい」「本当に努力したんだと思う」「演技が狂気的で凄い」等といった的外れではないが分厚くもないものだっただろう。
時に、本当に素晴らしい、と思っていてもそれに語彙の力が着いて行っていない人も多数いるのである種これは日本人の教養不足もあるかもしれない、と頭の中のオーディエンスに弁解をする。
「丈、楽しかった？」
「…んー、しんどかったけど、色々学んだな」
「ドラマと舞台の演技って、やっぱり違うんやな」
「集中力が、尋常じゃない」
おそらくそれだけではないだろうが。
いつも同じ仲間たちと作る夏の1舞台よりもずっとずっと技術も求められるそれを終えた藤原は満足そうに舞台上に寝転んだ。
「役者目指そうかな」
「辞めるん」
「いや辞めへんけど。んー、もっと演技の勉強はしたい」
「…そか」
「そんで、もっとちゃんとした演技の評価が欲しい」
「……評価」
藤原は少し寂しそうな顔をして、まだ熱の残っている照明が吊られた天井を見上げていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 10人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
MaKoto(プロフ) - ずっと、柚空さんの物語が好きでした。貴方の小説を読んでいると心臓の奥底が警告音を鳴らすのに、どんどん読むのを進めてしまうんです。今回、久しぶりに読めてすごく刺激になりました。もっと、頑張ります。ありがとうございます。 (2019年12月29日 16時) (
レス) id: 27cbf43c89 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：今江柚空
| 作成日時：2019年12月4日 0時
