ページ ページ22
言いかけて、子供相手に話すようなことではないという思いがよぎるが、しかし、私は既に浦田くんの事情について結構立ち入ったことを聞いてしまったし、それなら相手が子供だからという理由で言葉を止められないだろうと、私は話を続けた。
「私ってさ、すっげー、いい子だったんだよ」
「嘘はいけねえ」
「嘘じゃない……」
「そうか。じゃあ、嘘じゃねえということにしておいてやろう。嘘も方言だ」
「嘘つき村の住人なんだね」
「おれは正直村の住人だ」
「あっそ。まあそりゃ、きみみたいにバカ正直に喋る子でもなかったけどね、勉強もそこそこ優秀だったし、運動も賞を取れるくらいには優秀だったし、悪さもそんなにしなかったしで、それに、他の女子がそうしてたみたいに、意味もなく親に反抗することもなかったしね。育ててくれてること、感謝してたんだ」
「ほほう。ご立派だな」
「弟が二人いてさ、まあそいつらも似たような感じで、家族としてもいい感じだったんだけど、高校受験で、私、ちょっと無茶しちゃってさ」
「無茶と言うと」
「…………」
案外、小気味いい相槌を打つよな、この子。
「自分の学力よりかなり高めの学校を、無理して受けちゃってさ__そして合格しちゃった」
「いいことじゃねえか。おめでとう」
「いや、よくなかったんだよ。無理して、それで終わりだったらよかったんだけど__その結果、ついていけなくなっちゃってさ。いや、頭のいい学校で落ちこぼれると、本当、洒落にならないんだよ。それに、通ってる奴ら、真面目な連中ばっかりで……私や相川みたいな奴なんて、例外なんだ」
真面目の塊、天宮翔太でさえ、私みたいな生徒を相手にしている段階で、かなり例外的存在なのだが、それをカバーできるだけの能力が、彼にはあるというだけの話だ。
「すると、今までいい子だった分、反動が来てさ。別に何があるってわけじゃなかったんだよ。父親も母親も今まで通りだったし、私も家じゃ今まで通り、のつもりだけれど__ただ、言葉にならない気まずさがみたいなものがあってね。そういうのは、どうしても、出て、残ってしまう。だから、結局、お互い気を遣っちゃうし、それに__」
弟。
二人の弟が。
__姉ちゃんは、そんなことだから__
「そんなことだから、私は__いつまでたっても大人になれない、んだってさ。いつまでも大人になれない、子供のままだ__そうだ」
浦田くんは言う。
「じゃ、おれと同じだな」
26人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
灰猫(プロフ) - 紅茶さん» 紅茶さんコメントありがとうございます!お返事遅くなってしまい申し訳ありません(><) Twitterですが、アカウントを作り次第わたるマイマイ其の参の方にリンクを貼らせて貰いますのでもう少々お待ちくださいませ!! (2020年4月28日 0時) (レス) id: cd0e1b19a2 (このIDを非表示/違反報告)
紅茶(プロフ) - Twitter教えていただきたいです!都合上いいねとフォローしかできませんがそれで良ければお願いします! (2020年4月4日 19時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - しのみやさん» しのみやさんコメントありがとうございます!これからも是非楽しく読んでやって下さい(*^ ^*) (2020年3月31日 23時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
しのみや - 化物語も歌い手さんも好きなのでとても楽しく見させてもらってます! (2020年3月31日 18時) (レス) id: 5d97f4e4ba (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月29日 14時