【文スト】チェロの音はもういいから！！【ドストエフスキー】

三十曲目 ページ30

｢迎えに行くのが遅れて、怒っているのでしょう…？


ですが、これでぼくと貴方は死ぬまで一緒ですよ、嬉しいですよね？｣




そう言って、細められる紫眼は鋭く光っている。





｢やっと、異能のない世界を作れました｣




そんなもの欲しくない。




｢貴方はずっと、此処に居れますよ｣




帰して。




｢貴方のために、ぼく頑張りましたよ…？｣




頼んでない。









｢嗚呼…それと、



逃げてしまうこの悪い脚は









切っちゃいましょうね｣



そう言って幸せそうに笑う彼に、首を振って抵抗する。





だが、あたしの脚は“無くなった”。



(なんでっ………)




｢偽物のぼくをぼくだと勘違いした罰ですよ？


これで、逃げなくなりますし、悪いモノも無くなりましたし、一石二鳥ですね｣




何も言えないあたしはただ、涙を流すだけ。


その涙だって、






｢嗚呼、嬉しくて泣いてるんですね、ぼくも嬉しいですよ、幸せですね｣



(もう、ほんとに、ダメなんだな、)


嫌悪を言葉にできたのなら、どんなに幸せか。




あたしはもう、言葉にすることも声を発することもできない。





舌がないから。









｢前に舌を切って死のうとしてたときはどうしてだろうと頭を悩ませましたが、

そんな必要ももう無いですね。

幸せですから。｣






(死ねれば、どれだけよかったか)









助けて。

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