1. ページ1
高層ビルが立ち並ぶ一角に、その店は今日も変わらず静かに暖簾をあげていた。
街の中心部にあるにもかかわらず、都会の焦燥とした雰囲気を感じない異空間がそこにはあった。
知る人ぞ知る創業60周年の老舗弁当屋「椿」は、この街の歴史の一部と化していた。
生きる歴史といえば聞こえは良いが、客層は高齢顧客が半数以上を閉めており、都会の波に飲まれ消えゆくのは目に見えていた。
店主のパク・Aは、今年で26歳となる控えめで可愛らしい女性だった。
実は、この弁当屋は彼女の祖母が引き継いでいたが、その祖母も昨年体調を崩してしまった。
店を畳もうかと、50年間この店を愛してやまなかった祖母がぽろりと口にしたのを聞いて、Aは迷わず店を継ぐことを伝えた。
「椿」は、Aにとって人生の一部だった。
幼い頃、両親を不慮の事故で亡くした彼女は、母方の祖母にこの店で育てられた。
祖母はいつも優しく、包み込むような深い愛情で彼女を育てていった。
当然、料理の腕は同年代の女の子よりも上手いもので、郷土料理や和食もお手の物であり、彼女が弁当屋の店主になることに不思議はなかった。
「今日の分はこれでおしまいっと…少し多かったかな」
もうじきお昼時となる。
椿の弁当を愛してやまない常連さんがいらっしゃる時間だ。
最近見た日本の「花嫁のれん」という昼ドラの影響で和食を作るようになったが、常連さんからも評判が良い為いつもより多く作ってしまった。
「Aちゃん、今日も美味しそうだねぇ。」
「ハンさん、今日はなんだか作りすぎちゃって。大目に入れときますね」
ハンさんと呼ばれた高齢の男性はが杖を片手に、とても嬉しそうに弁当を受け取った。
昼時でも客足は少ない為、時間の流れがゆっくりと感じる。
金木犀の甘い香りが風にたなびき鼻をかすめ、秋のやわらかな風につられ瞼が重くなっていった。
JK「こんにちは」
耳に馴染んだ低い声が、意識をはっとさせた。
この店には似合わない、高級なスーツを着こなした彼は、いつもと変わらない優しい笑顔をしていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 314人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆき(プロフ) - (名前)マコさん» 全作読んでいただきありがとうございます！これからもよろしくお願いますm(_ _)m (2019年9月15日 12時) (
レス) id: 39e3cdebd3 (このIDを非表示/違反報告)
(名前)マコ(プロフ) - ゆきさんの作品を全部読ませていただきました！ とっても優しく幸せな世界に癒されて、私も優しい気持ちになれました^_^ ありがとうございます！ これからも楽しみにしています！ (2019年8月11日 22時) (レス) id: 1cef87080f (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - はるかさん» ありがとうございます！普段はグクちゃんと呼んでアミ活をしてるのですが、ここではかっこいいグクを理想に書いていきます！ (2019年7月31日 19時) (レス) id: 4ece362860 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 猫わかめさん» ありがとうございます！かっこいいジョングクと愛される主人公をこれからも書いていきます。 (2019年7月31日 19時) (レス) id: 4ece362860 (このIDを非表示/違反報告)
はるか - とにかく主人公可愛いしグクもめっちゃカッコいい…次の更新楽しみにしてます。 (2019年7月31日 17時) (レス) id: 2c32449133 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ゆき | 作成日時：2019年7月29日 3時
