回送バスには気をつけろ ページ7
小さな庭の隅に蹲る姿が見える。
そのお嬢様結びされた髪はよく手入れされていて、誰よりも美しい。
それなのに何故か寂しく見えた。
ふと、その子は振り返る。
「…土方さん、こんにちは」
笑みを浮かべてくれた。
その手にはスミレが握られている。花を摘んでいたのか。
何も言わずにじっと見つめる。
以前のような見窄らしい格好ではない。良質な生地でできた落ち着いた色合いの着物だ。
だが、その手は乾燥していて、骨張っている。
笑顔も強張っていた。
「お前さん、大丈夫なのか?」
ニコニコしたまま、視線を返すばかり。話を聞いていないかのように。
「A?」
ハッと目を見開いた。長いまつ毛が一瞬伏せられ、また笑顔を浮かべる。
「大丈夫って何がですか?私は以前と全然変わってませんよー」
……もうやめてくれ。
そう言いたくなる。
もう無理に笑わないでくれ。
でもそれは彼女の努力を全て殺してしまうから。
今日も何も言えない。
次の日も、その次の日も。
そのまた次の日も、そのさらに次の日も。
一週間、一ヶ月、一年…
春。
桜が体に降り積もっている。
Aは抜け殻のように庭の隅に佇んでいた。
やっぱりスミレを手に持って。
もう見ていられなかった。
「…来るか?」
俺がアイツの全てを壊した。
「………!!」
ハッと目が覚める。
見慣れた天井だった。
じっとりと背中に汗が伝う嫌な感覚。
カラカラに渇いた喉はひしめいている。
「なんだよ、夢か……」
起き上がり、屯所の冷蔵庫へ向かう。
だが、お目当てのものはなかった。
代わりに昼間に使い果たしたマヨネーズの容器がゴミ箱に入っている。
「………アイツがいれば」
いつもだったら絶対に言わない事。
夢の影響だろう、ついボソリと呟いてしまう。
いやはや昔の事は夢の中で出てくるものだ。
一つ伸びをして寝室に戻った。
……その場にもう一つの影があったとは知らずに。
白昼夢はそうそう簡単に見れるもんじゃない→←爆弾は唐突に降ってくる
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猫毒(プロフ) - ☆さん» コメントありがとうございます!またテスト期間が再来しました…更新頑張ります! (2022年6月21日 16時) (レス) id: 406276a8fb (このIDを非表示/違反報告)
☆(プロフ) - うわああ…めちゃくちゃ好きです🤦♀️無理なさらず頑張ってください…!!応援してます! (2022年6月17日 9時) (レス) @page11 id: f76d03d4ec (このIDを非表示/違反報告)
猫毒(プロフ) - 観葉植物2号さん» コメントありがとうございます!!!レス遅くなってごめんなさい…一ヶ月ずっとニマニマしてたので忘れてました((更新頑張ります! (2022年5月24日 16時) (レス) @page11 id: 60e955f946 (このIDを非表示/違反報告)
観葉植物2号(プロフ) - 声出して思いっきり笑いましたwwギャグセンス高すぎるw これからも更新頑張ってください!!!! (2022年4月30日 0時) (レス) @page2 id: 9098365451 (このIDを非表示/違反報告)
猫毒(プロフ) - 休日はゆっくりするべしさん» コメントありがとうございます!ギャグセンスには自信が本当に0なので安心しました…!こんな作者でも、応援よろしくお願いします! (2022年4月18日 18時) (レス) @page7 id: 057b83dcbe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:猫毒 | 作成日時:2022年4月16日 12時