鎖を解いて、その手を伸ばして

35＊きらきらしてる ページ35

　やっと終わった、という沙穂の声に、小さく拍手する。
　さっきまでの集中力は圧巻だった。


　目的は沙穂が通っている塾のテスト勉強なので、これで達成。
　私も手を止めて、予習をやっていた英語のノートを仕舞う。
　

「璃愛、今何時？」
「四時半だよ。みんなあと三十分ぐらい大丈夫だよね」
「うん」


　四時半、か。
　沙穂が璃愛に訊くまで全然気に掛けていなかった。
　そんなに勉強したんだ、一人でやっていたら考えられない。

　
「そうだ、あのさ、ちょっと前から言おうと思ってたんだけど、今年のバレンタインデーに友チョコ交換しない？」
「友チョコ交換？」


　男の子にあげるんじゃなくて、友達に。
　勿論知っている。
　最近は寧ろ友達にあげる方に力が入ってる子もいるような気がしないでもない。


　流行ってるな、とは思うけど、去年も結局お父さんと弟にあげるだけだった。
　あ、璃愛は去年誰かと交換したのかな。
　去年は璃愛と違うクラスだったから、その辺のことはあまり知らない。


「そう。今年、お姉ちゃんが好きな人に手作りチョコ渡すんだって。璃愛は渡す人いないのって訊かれたけど私好きな人いないからさ。でもチョコ作るの楽しそうだし、どうせだったら交換したいなあって」


　無理だったら私があげるだけでも問題ないから、と付け足して笑う。
　藍奈ちゃん、好きな人いるんだ。
　そこには触れない方がいいのかな。


「楽しそうじゃん。お母さんに言ってみる、璃愛たちとチョコ交換したいって」


　私がそう言うと、璃愛はぱっと顔を輝かせた。
　文字通りきらきらした眼差しだ。
　沙穂も良いね、と言って頷いている。


「よし、決定！」
「あっそうだ、向こうにバレンタイン関連のコーナーあったよ」
「Aそんなのまで見てたの、凄すぎ」


　目を見開いて褒めてくれる沙穂に照れ笑いを返して、立ち上がる。
　二人も荷物をまとめて椅子を机に入れた。


「こっちだよ、カウンターの近く」
「いこいこー」


　控えめにはしゃぐという矛盾した状況が楽しい。

　二月十四日。
　好きな人さえもいない私だけど、いつもよりもわくわくしてきた。

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