鎖を解いて、その手を伸ばして

17＊決めた言葉で ページ17

　前半に表現するグループが一列に並ぶ。
　私は前半は見る方、後半に表現するグループになった。
　

「みんな、表現する言葉決まった？」
「うん」
「待ってください、まだちょっと……」


　感情練習のときは、風羽ちゃんに代わって沙穂が仕切る。
　演劇部では毎年先輩が引退してすぐ、二年生の中から部長、副部長、練習リーダーを決めて、それぞれ仕切るべきところで前に立つ。
　感情練習のリーダーは沙穂。
　私は発声練習のリーダーをやっている。
　得意分野を生かせるから、良い伝統なんじゃないかな。

　感情練習では、表現する言葉を決めて、その言葉だけを使っていろいろな感情を表す。

　例えば「プリン」と決めたら、お題が嬉しい、でも悲しい、でも「プリン」という言葉だけで表現しないといけない。
　言葉は単語じゃなくて文や挨拶でも大丈夫だ。


「沙穂、決まった！」


　最後まで悩んでいたここちゃんが顔を上げた。
　めっちゃ考えてたねー、と言われて恥ずかしそうにしている。


「先輩、感情なんですか？ 明ですよ」
「そうねー。祝福、とか？」


　沙穂が改めて明、と念を押す。
　先輩は少しの間悩む振りをして、さらりとお題を出してきた。
　いきなり難しそう。
　でもおめでとう、って言う感覚で喋ればいけるのかな……
　みんながどう表現するのか楽しみだ。


「はい、じゃあここちゃんからね」


　ここちゃんが頷いたのを確認して、沙穂がスタート、と合図した。


「最後の扉が、開いたようですよ！」


　意味深な台詞(せりふ)。
　こんな風になんでもありなのだ。
　アニメ好きの子は名台詞を使っていたりもする。
　
　ここちゃんの表現は、良いと思う。
　他の明るい感情と分けようとしてることがなんとなく分かるし。
　表情も祝福っていうのにぴったりだ。

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