猫かぶりの裏の顔2【奈良坂透】 (ページ32)

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｢どうしたの？ほんとうにどうしたの？｣

こんなことしないと思っていたからその攻撃力はなかなかのもので、河北の告白や、出水のキスでさえもこんなに心臓の音が激しく聞こえはしなかった。

｢いま、俺の事犬みたいだとか思ってたでしょ｣

下がった分だけまた近付く。それの繰り返しでじわじわとねずみとねこが始まった。
先程の子供っぽさは完全に抜けて、今はどこをどう見ても透の見た目をした男性がいた。それに少し気圧され唇をキュッと結ぶ。

｢やっぱり、まだだめ？｣

追いかける足を止め、透はシュンと項垂れる。それにどう答えるかは迷った。
嫌ではないのだ。これは私の気持ちの問題で、数年ずっとラインを引いてブレーキをかけている。
それをずっと、合わせてくれているのは透だった。

｢だめ、じゃ、ない。けど…｣

恥ずかしげに途切れ途切れ答える。
昨日と今日だけで一年分くらいの衝撃を受けた。そのせいで正直疲れている。

全員が毎回突然なのだ。その度にジェットコースターに乗せられているようなもので、疲労しないわけが無い。

続きを答えない私に透が軽いため息を着く。
そして

｢A、俺たち一度別れよう｣

また突然にジェットコースターは登り出す。

｢え？｣

温まった顔が一気に冷める。
床から正面に顔を上げる。

｢それで、今からまた告白するから｣

目を見開き透を見ると、さっきまで何食わぬ顔で口付けてきたとは思えないくらい顔を赤くし肩がガチガチで緊張していた。

呆然とし、ぱちぱちと瞬きをする。

｢今までのこと無かったことにするってこと？｣

｢違う。不必要なものを失くす｣

システムのアップデートのようなものだろうか。

｢でもそれって一旦別れなくてもいいんじゃ｣

言ったはずだ。帰ったらちゃんと話そうって。どうしてそうなってしまうの。

｢それだとあの約束が消せない｣

今回の事で色々ギクシャクした。それもこれもずっと辿ればとある約束も原因の一つではある。私達がどうしてラインを引いて、真面目で堅い関係を続けているのか。

(なんか、嫌だな)

たった一言で簡単に消してしまう。いらなくなった家電を捨てるように。

その捨てるものでさえ私にとっては大切なのかもしれない。それは今に至るまで必要であったと思いたい。