ハチミツよりも甘い 2

94 北山・太輔 side ページ46

北山 side


「ねえ、みつ…」

その帰り道、海斗が泣きそうな声で言った。

「どうしてお母さんは僕のお父さんがみつだと思ってるの…？」


すぐに答える事ができなかった。

あの日、Aはもういっぱいいっぱいで、俺と藤ヶ谷の争いで叫び声と共に気を失った。

それから壊れてしまったAの心。

俺とAは結婚してて、海斗は俺との子供だと思っている。

それがAが思い描いた理想の未来だったのかはわからないけど…


「もう少し大きくなったら話してやるよ。
そん時は俺の事殴ってもいいから」

なにそれって笑ってたけど、心から海斗に申し訳無い事をしたと思ってる。

やっぱりあの時、食事の誘いを受けるんじゃなかった。

そしてAは俺と海斗と会っている時と、藤ヶ谷と会ってる時と、違う世界を生きているようだった。





太輔 side


「A」

「太輔！」

病室に顔を出すと、Aは満面の笑みで俺の名を呼んだ。

「これ、ほんとにありがとう」

左の薬指にはめている結婚指輪。

Aには婚約指輪に見えてるようで。

「私、太輔の奥さんになるんだね」

きっと、俺達が一番幸せだった時期。

誰にも邪魔される事なく、輝かしい未来だけを考えていたあの頃。

結婚雑誌を広げ、どんなドレスを着ようか、どんな髪型にしようか考えていた。

「太輔は白いタキシードがいいな。
絶対かっこいいから！」



つい最近の出来事がまるで嘘のようだよ。

俺になんの曇りもない笑顔を見せてくれる。

あんなに俺に怯えていたのに。



こんな状況で不謹慎だと思うかも知れないけど、なんだか俺も今が一番幸せだよ。

Aの心がここにある。

俺を欲してくれてる。

愛してるよ。

こんな愛し方しかできなくてごめんな。

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