ハチミツよりも甘い 2

85 北山 side ページ37

.



ただ街を歩いた。

何をするでもなく。

そのうち陽もだんだんと傾いてきて、影が長く伸び始める。

その影を見てるとなんだか物悲しく感じてきた。

何をしたって頭からAの事が離れない。





あてもなく街をさまよい、自分の部屋に帰ってきた。

ベッドに腰掛けて今までの事をいろいろ思い出してみるけど、Aはいつも俺の事を考えてくれてたな。

Aが俺の為に守ってくれた未来、大事にするよ。





俺は予定よりも早く復学し、ちゃんと勉強して大学を卒業し、スポーツクラブのインストラクターとして就職した。

それから何人かの女の子とも付き合ったりもしたけど、やっぱりA以上の人はいなかった。

それから数年してこの街に転勤になった。

家の近くに大きな公園があって、そこにサッカーをしてる子達が多数いた。

ベランダから良く見えるけど、何人かあんまり上手じゃないかなって子がいて。





ムズムズしてきた。

教えてやりたい…

そう思うと足はもう公園へ向かっていた。





1人、多分自分でも上手じゃないってわかってて、それでも一生懸命練習してる子がいた。

「そこはその足の向きじゃなくて…」

と突然話しかけてしまったけど、その子は俺の話をうんうんと聞いていた。

「あ、できた！！」

と満面の笑みで笑う。

その笑顔がなんとなくAに似てる気がした。

「すげーじゃん！！」

と頭をわしゃわしゃして褒めまくった。

「がんばったな。お前、名前は？」

「藤ヶ谷海斗！」





一瞬止まったけど、そんなはずはないと打ち消した。

でも…なんだか…

確認しなきゃいけない気がしたんだ。

「お前イケメンだからとーちゃんもかーちゃんもいい顔してんだろうな」


するとすぐそばに置いていたカバンから携帯を取り出して、俺に写真を見せてくれた。


「お母さんも美人だけど、お父さんはめちゃくちゃかっこいいんだ！」



胸が締め付けられて痛かった。

その写真で微笑むA。




今、幸せ……？

86→←84 北山 side

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す