【文スト】通りすがりの通行人A

二十五刻 ページ27

崩壊した船は徐々に傾き、乗っていたものが全て海へ投げ出される


それは私も同じだった


寒い


寒いよ


冷たい水の中


浮いたり沈んだりしながら流されていく私の身体


そのまま私は岸の方まで辿り着いてしまった


このまま流れて死んじゃえばよかったのに


そんな思いが脳裏を過る


然しモブにそんな事が起きるはずない


モブは誰に助けてもらう訳でもなく、死んで悲劇のヒロインになる訳でもなく、特別な力で奇跡が起きる訳でもない


平凡に始まり平凡に終わるのだ



「……ぅ…ぅあ…あぁ……」



川のように流れる涙に嗚咽


今の顔はきっととても醜い






でも





誰でもいい





助けて









泣き続けてどれくらい経っただろう


空には月も星も見えない黒が浮かぶ


中島さんが探しに来る事も、芥川が始末しに来る事もなく1日が終わってしまった


あんなに痛かった腕の感覚がもう無い


ボロボロになってしまった服


水に濡れてきっと使い物にならなくなってしまった大切なフルート


もう、家に帰る気力も底を尽きた




「……」



私は歩く



唯々何も無い所へ



確かこの街には貧民街があったはず



そこでひっそり消えていくのも悪く無いかな



今はそんな事さえ考え始めていた

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