【莉犬くん】過去と繋ぐ未来【5周年記念】 (ページ10)

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まるでペットが亡くなってしまった様な神妙な面持ちで、莉犬くんが尋ねた。

「交通事故だよ。

相手の車は飲酒運転だったみたい。

……ねぇ、紙とペンあるかな？」

私が紙とペンを要求すると、莉犬くんは不思議そうに、チラシの裏とサインペンを私に手渡した。

「私は6月3日、時間は確か夜10時ぐらい。

東京都○○区の○○交差点を、こっち方向に歩いてたの。

横断歩道を渡って、この辺りかな？

この辺で一旦足を止めたんだ」

私はチラシの裏に適当に地図を描いて、当時の状況を説明した。

無駄にどうでもいい所をこだわってしまう性格の私は、いろんな情報をそこに書き込み、車と接触した場所には×印を付けた。

「まあ、いくら青信号だからって、横断歩道の途中で止まった私も悪いんだけどね」

自分の死因を紙に書き記した人間は、おそらく私が世界初だろう。

莉犬くんは複雑な表情で私の話を聞いている。

「あ……ごめん。

こんな話しちゃって」

莉犬
「ううん、俺が聞いた事だから。

ありがとう、ごめんね。

Aさんも辛いのに」

ぶっちゃけ私はもう自分が死んでしまった事を何とも思っていない。

いや、何とも思っていないと言えば語弊があるか。

私は至って冷静に、自分の死を受け入れている。

莉犬
「でもさ、何でここで立ち止まっちゃったの？」

莉犬くんは私が描いた×印を指差す。

私がそこで立ち止まった理由。

それは、すとぷりの解散報告を聞いて、ショックの余り立ち竦んでしまったからだ。

だけどそんな事、莉犬くん本人に言ってしまったら嫌な気持ちにさせてしまうだろう。

私が死んだ理由が、自分のグループの動画だなんて。

いくら明日記憶がリセットされるからといって

リスナーとして、人として

莉犬くんを悲しませるのは嫌だ。

「ガム、踏んじゃって」

莉犬
「え？」

「ガム踏んじゃってさ。

しかもすっごい大きいの！

そりゃ思わず足止めちゃうよってくらい」

私は嘘をついた。