水と風は～その後～ (ページ9)

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夜ページ9

≪風柱不死川実弥視点≫

「おい、布団敷けたか」

悶々とした気持ちをなんとか押さえつつ
湯浴みをし、寝る前にあいつの部屋に声をかける

返事がない
もう寝てんのか

「おい、開けるぞ」

声をおさえ、静かに戸を開ける

「A？」

部屋には誰もおらず、布団も敷いてなかった

湯浴みしたばかりなのに一瞬で冷える体

「A！」

昔を思い出す、嫌な、最悪な記憶

「Aっ！」

必死で探す

夢じゃないっ

「A！」

「不死川さん？」

寝巻き姿で縁側に腰掛けてるA
全身から力が抜ける

「っ……なんでもない」

Aの横に腰掛け

「月でも見てたのか？」

空には傘がかかった満月

「待ってるんです」

「…？」

「私、誰かを待ってるんです」

「……」

「私がいたのは真っ暗な世界。
そこにいるとゆっくり、ゆっくりなにかが私から消えていった。

何が消えたのかも今はわからない」

Aの目から涙がこぼれる

「でも、言われたんです。
″待ってて″って。

その人の名前も、顔も、声も何も覚えてない。
もしかしたら人じゃないかもしれない。
なんで待ってなきゃダメかもわからない。
その人はもう私のことなんて忘れてるかもしれない。

でも…私はその人を待っていたい」

きっと、それは俺だと思う

でもそんなの言えない

「あの暗闇の中でその言葉、記憶だけが私の光だった」

「もういい」

Aの腕を引き、胸に引き寄せる

「もういい」

Aの背中をゆっくり擦る

泣きながら俺の寝巻きを握りしめるA

辛かったよな
あんな何にもないところで、1人でよく頑張ったな

「もう一人じゃねェーよ」

ひとしきり泣いたAは俺の胸で寝てる

前にもあったなこんなこと
肌にAの柔らかい頬の感触

「子どもみてェー」

俺の寝巻きを握りしめてて離さない
そのまま抱き上げ俺の部屋の布団に寝かせる

「おい、離せ」

Aの手を離そうとするがなかなか固い

しばらく格闘するも諦めた

「あー」

また生殺しかよ