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「もしもし･･･僕ですけど･･･。」「クリーニング終わりました。このまま帰らせてもらっても大丈夫ですか。」あの人と同じ、優しい響きを持った声がスマホから聞こえる。
「ご迷惑をおし掛けしました。」「そうしていただいて結構です。」そう返事を返して通話を切る。
暫くはあの人との思い出を反芻していたけれど、私の脳内のあの人の声が今の電話を受けた時に上書きされている事に気がついた。
それは、私にとってずっと恐れていた事だった。
今はまだあの人ととの思い出の中で生き続けたい、そう思ってその声を振り切るようにあの人が頼んだのと同じカクテルのグラスの中身を飲み干す。
いつもならグラスをそのままにしてバーを後にするけれど、今日はカウンターに二つのグラスを手に向かう。
そしてもう一度謝罪とお礼を口にしてからバーを後にした。
エレベーターから廊下へと足を進めながら、考えていたのはあの人の事では無くて今はもう部屋から帰って行ったはずの二度と会うことの無いアイドルの事だった。
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作者名：UTA
| 作成日時：2019年11月26日 14時
