苦労の記録106 ページ6
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「僕を揶揄っている心算ですか?」
じわりと滲んだ怒りを隠し、表面上では冷静を装いながら応対する。
強がっているが、この目の前の男にはそれさえもバレているのだろう。嫌な男だ。
「いや別に。……解答は?」
太宰幹部はニコニコと頬杖をつき、俺の返答を促した。
どうにもイラっとしてしまい、小さく息を吐いて、かっとなりそうな頭を冷ます。
「僕は別にどうも」
俺の答えは意外だったらしい。太宰幹部は少しだけ目を丸くさせた。
「意外だね、怒ると思っていたのだけど」
「別に怒りませんよ」
そう、別にその位で怒りはしない。いやまぁ、正直怒ってはいるのだが、けして表情には出さない
この男がAを危険に晒そうが、死の前線に立たせようが、もう反論はしない。
この飄々とした男相手に反論したところで、何も変わりはしないと、今回の件でこの身をもって実感したからだ。
ただ、言うことがあるとすれば。
「俺がAを守ればいいだけです」
これは宣戦布告だ。
やれるもんなら、いくらでもやれ、という、俺からこの男への宣戦布告。
売り言葉に買い言葉な節もあったが、これはまぎれもない本心だった。
「そうかい、頑張り給え」
目の前の男は試すように俺を見たあと、ふふ、と児戯を見る保育士のように笑った。
「話はそれだけだ、もう行っていいよ」
「…分かりました」
よく分からない質問をされただけのこの面会は、もう終了させていいらしい。
一気に肩の荷が下りた気分になり、俺は足早に扉に向かった。
「……」
取っ手に手を掛けたところで、俺はぴたりと動きを止めた。
「……太宰幹部」
「ん?」
言うか否か、少しの間迷って、俺は太宰幹部の方に向き直った。
「あの時、貴方は仰いましたね
“能力発動の確認の為だけに、Aの腕を刺した”と」
太宰幹部は、改めてゆっくりと俺の方を見た。
「そしてこうも言いました
“意味があるとまでは言ってない”と。
その言葉が真実かは分かりませんが、今回の騒動では、Aはその傷に助けられました。
太宰幹部はあの行動には意味が無いとお思いでいたとしても、結果、Aにとって意味のある行動でした」
そう、あの傷がAを救ったというのは事実なのだ。
此奴がいったい何を思ってAを囮にしたがったかは、わからないとしても。
「どうも、有難うございます」
俺は丁寧にお辞儀をして、部屋から去った。
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メガネ第2号(プロフ) - かえる。さん» 返信激遅でごめんなさい、更新しました!コメント励みになります、遅筆ですがぜひ最後までお付き合い下さい。 (2022年8月28日 6時) (レス) id: 652442107f (このIDを非表示/違反報告)
かえる。(プロフ) - やったー!更新してる!(≧▽≦) (2022年5月24日 21時) (レス) @page46 id: 06d9623eb5 (このIDを非表示/違反報告)
メガネ第2号(プロフ) - 望務さん» ひい!!嬉しいです。文章少し長くなったりしてうざったいかもしれませんが頑張って書きます!ありがとうございます! (2022年5月24日 20時) (レス) id: 5b50776276 (このIDを非表示/違反報告)
メガネ第2号(プロフ) - 紺さん» 前々から読んでいてくれていたんですね!出戻り嬉しいです、本当にありがとうございます!コメント励みになります、頑張りますね! (2022年5月24日 20時) (レス) id: 5b50776276 (このIDを非表示/違反報告)
メガネ第2号(プロフ) - 小夜子さん» 返信遅くなってごめんなさい!コメントありがとうございます、他の作品も読んでくれているようで凄く嬉しいです!文スト4期公開楽しみに頑張ります! (2022年5月24日 20時) (レス) @page46 id: 5b50776276 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:メガネ第2号 | 作成日時:2018年7月3日 4時