傷だらけの君を、描かせて呉れ。【文豪ストレイドッグス】−不浄編−

Necromance８８ ページ38

_



結局二人でアイザックの事を撫でた。彼の表情が和らぎ、安堵した二人は再び黙り込む。何故だか…中々話せずに居るのだ。太宰は判って居るからだ。これから藤崎が…為そうとしている事を。



「なぁ太宰君。俺もアイザ君って呼びたいなあ」


「駄目だよ」


「如何して」



「駄目ったら駄目」と、太宰がにこにこと微笑みながら云う。
今の所、彼を「アイザ」と呼ぶのは太宰だけであり、そして何か思い入れがあるのだろうと思った。



「じゃあいいもんね〜！アイって呼ぶからぁ！」


「それは女みたいだからやめろって云われると思うのだけど」


「やっぱり？」



白手袋を嵌めた指を口唇に当て、ならば他に如何呼ぼうかな、と考え込む桜髪の男。然し…これからの事を考えると、今更渾名を考えるなど馬鹿馬鹿しく思えて来た。そうして独り、クスリと笑う。



「…翔？」


「あぁ…ごめん！少し馬鹿馬鹿しくてさぁ〜！どうせ、もう会わないのにね？」



この街を護るには。彼の力が必要だった。そして、彼は代償により二度と目を覚まさない…まるで生死を彷徨う植物人間の様になってしまった。

これは予測済。彼が目覚める方法が…ひとつだけある。





「そろそろ行くよ」


「もう…行くのかい」



二人にしか判り得ない会話。何処に行くのだと聞けば、きっと何処にでもないと返される。その通り、何処にも行かない。この場から動く心算は無い。




君達には特別だ。答えよう。



『精神世界』だ。



眠ったまま、寿命が来るまで永遠に生死を彷徨うアイザックの魂を…引き摺ってでも呼び戻す。



アイザックの『精神世界』に入れるのは、あらゆる人間の魂、霊体、精神に干渉出来る力を持つ藤崎だけである。藤崎の精神が、これから飛ぶ。穢れた彼の…深淵に。



「ヘルメスの思想を知っているかな、太宰君」


「…知っているよ。真理の扉だ。得るものには必ず代償が付き物になる。生を得れば、必ず代償として死が訪れる」



何の代償も無しに、アイザックを起こす事など出来ない。彼を起こしたくば、代償を差し出せ。神は云う。


藤崎が立ち上がり、アイザックの顔の真横に立つ。



「……さて！ここからは体力勝負だ！いやぁ、俺体力は自信ないんだけど、精神だけは図太いからさ！まあ期待しててよ！何時まで寝てんのって、引っぱたいて来るよ！」



こんな時まで、おちゃらけて笑う。太宰はぐ、と拳を握る。止めても無駄だろう。藤崎の顔を見る事が…出来なかった。



_

Necromance８９→←Necromance８７

何処かの誰かのノート

彼奴を必ず救う。絶対に。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す