第五十六舞『豪速の救世』 ページ6
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今年の十一月は、とても寒い。
短い日は既に沈み掛かり、横浜の街に早めの夜を知らせる。
アイザックは、探偵社に出会う前の二年間住み着いていた廃工場の方面へ足を進めた。
大火事があって酷い有様だったが、地下に隠した金の一枚や二枚残って居るだろうと思った。
三ヶ月前、『救世主』と騒がれたアイザックだが、当の本人は知らず街を彷徨く。
しかし、この辺りには人が寄らない為、人の目は気にならない。
『
『ケガレ』とは、この二年でアイザックが畏れられ、ゴロツキの間で呼ばれた名だ。
廃工場に足を入れようとすると、遠くに人影が見えた。
人影は、何やら周囲を気にし、路地裏に入って行く。
怪しく思ったアイザックは、路地裏に向かう。
元より、他のゴロツキから巻き上げた はした金など、如何なって居ようと善いのだ。
アイザックは路地裏の入口で足を止め、長く続く暗くて狭い道を、横目で眺めた。
風で金色の髪が靡き、懐中に手を突っ込み、狭い道に入る。
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「観念しろよなぁ、お嬢ちゃん。一人でこの辺彷徨くのがいけないだろ?」
片目を失ったのだろうか。隻眼で図体の大きい男と その取り巻きのゴロツキが、一人の少女を拘束して居た。
「は、なして…くれませんか…」
少女は抵抗をしたのだろう。顔も腕も傷だらけで、血が滲んでいた。
少女は白茶色の髪に、栗色の瞳だった。
顔付きは愛らしく、ゴロツキに絡まれるのも頷ける。
「良いだろ?この『ケガレ』様が相手してやろうってんだぜ?」
すると、隻眼の男の肩に石コロが当たる。
それも、かなり痛いであろう速度で。
「っ痛ぇ!?誰だコラァ!」
「ストライク」
アイザックはそう云い、鋭利な目付きでゴロツキの集団を睨み付けた。
「この餓鬼、俺の事を知らねぇ様だな。俺はあのケガレだ。痛い目見るぜ」
「へぇ、そう。そりゃ楽しみだ……なッ!」
アイザックが語尾を強調すると、同時に今度は一回り大きい石が豪速球で向かって来る。
石は惜しくも、隻眼の男の隣に居るゴロツキに当たる。
「うわ…外した。矢っ張り、野球は向いて無いな」
この青年、至って野球感覚で居たのだ。
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要注意異能力者____内務省異能特務課より。
アイザック・バシェヴィス・シンガー:身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。
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χCielχ(プロフ) - やっさんさん» ありがとうございます!アイザックはしかも望んでない体質ですからね…!!実はこの異能兵器、考案した奴はシンガーじゃないんですよ…さて誰でしょう…??((激辛カレーは五分五分ですかね!!!?? (2019年10月1日 19時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - アイザック編を、読み切りました。アイザックさんも、厄介な体質ですね汗。とんでもな異能兵器の発動で、冷や汗でしたが、なんで良かったです。余談、激辛カレー勝負の行方や、いかに!?(笑)。二人とも、口から火を吹くか!??。(笑) (2019年9月28日 20時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - リアさん» ありがとうございました!カレーは…そうですね、二人とも1口目でギブしてそうです笑笑 (2019年7月16日 21時) (レス) id: 7ff5a81624 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - カレーの勝敗気になりますwwとても面白かったです!(^^) (2019年7月4日 0時) (レス) id: f94faaa2fc (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 翠柘榴さん» わーー!!ありがとうございます!見てくださったんですね…!!おっふ短気ゴリラアイザックがお世話になりました…((ひえええ勿体ないお言葉です、ありがとうございました!!!! (2019年5月23日 0時) (レス) id: 7ff5a81624 (このIDを非表示/違反報告)
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