死ぬより先に、どうか殺して呉れ。双【文豪ストレイドッグス】

第九十六舞『メメント・モリ』 ページ46

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爆発が起こった。




それは予測も出来ない突然の事だった。




ロアは長年海水に浸かり、劣化して既に脆くなっていた。




鰐型のこの異能兵器。ロアは科学実験の産物であり、異能力はこの巨体を動かす原料に使われた。




実は、異能兵器と云うには…少し違う紛い物だった。





爆発が起こったのは、アイザックの真後ろだ。






目が眩み、余りに大きい音がしたので、鼓膜が破れて何もかも聴こえなくなった。





右腕に激痛が走った。右の肩が異様に軽い。







「＿＿＿＿！！」







自分でも何を云ったか判らない。もしかしたら、情けなく…柄にも無く叫んで居たかもしれない。







爆発で、右腕が吹き飛ばされて居た。






気が付いた時には…右腕とは別の方向に、爆発の暴風で身体が吹き飛ばされた。





バシャン！と云う音もアイザックには聞こえず、海に投げ出される。






右腕から大量の血が、海の水にふわふわと浮かぶ。アイザックは右腕を抑え、諦めた様に暗い海に沈んで行く。






粉々になったロアの破片が、共に沈んで来る。









＿＿＿＿嗚呼、そうか。








お前も寂しかったんだな。







暗い海の底で、独りで、自分が何者かも判らず。








なぁ、ロア。







お前は、俺でもあるのか？








アイザックは、こんな窮地にも関わらず頬を僅かに釣り上げた。








これは、拙いな。







薄れる意識の中見えたのは、海ごとアイザックの身体を、
真紅の氷が凍結して行く様子。





二酸化炭素の泡を吐き出した。



凍死より、溺死が先だな。







この侭、命潰えたら…彼奴はきっと、羨ましがるだろうか。





彼奴等は、覚えて居てくれるだろうか。







死んで悔しそうに羨ましがる太宰が、地獄で見れるなら…。






まぁ、悪くは無いか。







ただ…すこし、すこしだけ、かなうなら。











まだ…、あいつと、けんかしていたいかな。












＿＿＿＿

＿＿












海から、波の音を立てて真紅の氷が上がった。




横浜近海の海の上に浮かぶ男の名は、中原中也。







「…ッたく、手間の掛かる奴だぜ」





海ごと凍結していた真紅の氷。かなり大きい真紅の氷に覆われ、死んだ様に気を失ったアイザックを、中原が重力で海から出した。





「俺に鍛えられたヤツが、んな所でへバる訳ねェだろ」





死んでいるか、気を失ったかは判らないが、中原はアイザックに呼び掛けた。




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要注意異能力者＿＿＿＿内務省異能特務課より。

アイザック・バシェヴィス・シンガー：身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。

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