死ぬより先に、どうか殺して呉れ。双【文豪ストレイドッグス】

第七十八舞『異端の魔人』 ページ28

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アイザックはドストエフスキーから目を逸らし、黙り込んで居た。




アイザック自身、葛藤して居たのだ。





如何云う意味だ？主を太宰から、ドストエフスキーに変えろと
云う意味か？






「ああ、何も今全て決めろと云う理由ではないので。貴方
なりに考えて頂いて結構です」






ドストエフスキーは僅かに微笑んで、アイザックの目の前に手を出した。



白いその掌の上に、銀色のピアスが乗って居た。






「恐らく、異能兵器は起動するでしょう。もし貴方が…ぼくの
情報に頼りたいと願うのなら、その時にはこれを付けて下さい」





ドストエフスキーが云う事には、このピアスには発信機と無線機が付いているらしい。



アイザックがこの銀のピアスを耳に付けた瞬間、取引は開始すると云う理由だ。







「……判った」






ドストエフスキーの掌にある銀のピアスを受け取ろうとするも、手がぴたりと止まる。



ドストエフスキーは無理矢理渡す事もせず、只アイザックが自ら受け取るのを待って居た。




何を考えているか判らないこの男。






真逆とは思うが、この男…成行きでこの店を選んだ訳じゃなかった？





アイザックと取引をする為、アイザックが此処に来る事も予測して。





先程の煙草の男を利用し、自然にアイザックと接点を得ようとしていたなら。




そうすれば辻褄が合う。





で無ければ、少し勢い良く机にぶつかった位で、皿に乗せられて安定した珈琲の杯が、簡単に落ちる筈が無い。




態と落ちやすい様、机の端っこに珈琲の杯を置いて居た？






アイザックの頭に、それが過ぎった。






「…っち、」





アイザックは、銀色のピアスを受け取った。






「少しは頼られる可能性があると云う事ですか？」





「…そうだよ、貧弱男。あんた態と俺に助けさせただろ？」





ドストエフスキーは変わらぬ表情だが、少し不機嫌そうなアイザックに鋭い眼差しを飛ばされて居る。





「…？何の事でしょう？」





その云い分も、首を傾げた行動も。


嘘だと判って居るが、とても憎めないのがこの男。






「お菓子、ごちそーさま。だけど善いか良く聞け。あんたの力を借りる確率は二割だ、二割！」





アイザックは指を二本立て、ドストエフスキーの目の前にそれを見せた。






「おや、そうですか。それだけあれば充分です」






何を云おうと表情の変わらないドストエフスキーを、若干懲らしめてやりたくなった。





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要注意異能力者＿＿＿＿内務省異能特務課より。

アイザック・バシェヴィス・シンガー：身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。

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