第六十八舞『邂逅と決別』 ページ18
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太宰は、自分の掌に置かれた注射器を眺めた。
暫くして、目をぱちくりさせてアイザックを見た。
「え…あの、アイザ君。君はこれの意味が判っているの?」
アイザックは今、自由の身なのである。
もう一度主人を作ろうとすれば、記憶は消える。
「ま、あんたが嫌ならいいや。中原に頼むか」
少し底意地悪そうに口角を上げると、太宰は歪んだ笑顔を浮かばせた。
「一寸、其れだけには譲れないかな?」
アイザックは誰でも善いと云う雰囲気を漂わせるが…心の底では、太宰以外には居ないのだ。
古い恩人の、最期の言葉でも有るから。
「じゃ、頼むよ。太宰サン」
太宰を心配させないよう、アイザックは何時もの表情で、太宰を覗き込んで云う。
「…君は、記憶を失う。そうしてでも、この冊に書いてある事を遣り遂げるのかい?」
最後の確認をする様に、真剣な顔付きで訊いた。
「あぁ…絶対に。俺の目が覚めたら、その冊が俺の目に入りそうな所に置いといてくれよ」
冊の表紙を見ると、『アイザック・バシェヴィス・シンガー、
絶対に見ろ』と書いてある。
太宰は肩を落とし、小さく溜め息を吐く。
「…判ったよ、強情だなぁ」
太宰は、自身の血液を注射器に取るため、腕にある包帯を解いた。
「アイザ君…悪いんだけど、一寸血抜いてくれない?」
「…はぁ?一人で出来ないのかよ…」
仕方ないと、アイザックは太宰の腕に注射器の針を刺す。
充分に血を抜き取った所で、腕から針を抜いた。
「後は…俺一人で出来る」
そうしてアイザックは、太宰の鮮血が入った注射器の針を、
自分の腕に向けた。
しかし それを止める様に、太宰が注射器を奪い取る。
「これは、私の役目だよ」
金色の髪をした青年が、不安そうな顔をしていたのを、太宰は見過ごさなかった。
「……有難う」
アイザックは俯いて腕を差し出し、太宰はその細い腕に、
針を刺し入れる。
鮮血が入る。
どくん、と鼓動が高鳴った。
意識が薄れる。景色が暈ける。
「アイザ君」
太宰が呼び掛けると…太宰の胸に、アイザックの拳が トンと軽く叩かれた。
「…またな、太宰」
誰が何を云おうと、
今この『彼』はもう____帰っては来ないのだ。
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要注意異能力者____内務省異能特務課より。
アイザック・バシェヴィス・シンガー:身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。
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χCielχ(プロフ) - やっさんさん» ありがとうございます!アイザックはしかも望んでない体質ですからね…!!実はこの異能兵器、考案した奴はシンガーじゃないんですよ…さて誰でしょう…??((激辛カレーは五分五分ですかね!!!?? (2019年10月1日 19時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - アイザック編を、読み切りました。アイザックさんも、厄介な体質ですね汗。とんでもな異能兵器の発動で、冷や汗でしたが、なんで良かったです。余談、激辛カレー勝負の行方や、いかに!?(笑)。二人とも、口から火を吹くか!??。(笑) (2019年9月28日 20時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - リアさん» ありがとうございました!カレーは…そうですね、二人とも1口目でギブしてそうです笑笑 (2019年7月16日 21時) (レス) id: 7ff5a81624 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - カレーの勝敗気になりますwwとても面白かったです!(^^) (2019年7月4日 0時) (レス) id: f94faaa2fc (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 翠柘榴さん» わーー!!ありがとうございます!見てくださったんですね…!!おっふ短気ゴリラアイザックがお世話になりました…((ひえええ勿体ないお言葉です、ありがとうございました!!!! (2019年5月23日 0時) (レス) id: 7ff5a81624 (このIDを非表示/違反報告)
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