その胸に秘めること ページ8
68階、いつものスイートルーム。
パタンと静かにしまった扉が虚しく部屋に響いた気がした。
「先にシャワー浴びるか?」
「………。」
「A?」
「え?」
いつの間にか回り込んで私の前に立っていた晋助さんが訝しげな顔をする。
言うまでもなく、私の脳裏には先程の坂田先輩の姿があった。
どうして、あの人は…あぁなんだろう。
「疲れたならもう寝るか?」
「い、いえ…そうじゃないんですけど」
「なんだ、そんなに俺に食われてェか」
「し、晋助さん…!!」
流石にそんなに生々しく言われると居た堪れなくて私は俯いた。
せっかく晋助さんと一緒に居るのに、明日はお休みなのに、これじゃあいけないと私の脳内が警鐘を鳴らす。
だけど、何を言ったら良いのかも分からなくて、どう繕おうか、とそればかり考えてしまって。
そんな私を落ち着かせるように晋助さんは肩に手を置くと、そのまま私をベッドに座らせた。
「さっきの銀髪、ただの知り合いっつー訳でも無いんだろう」
「………。」
何も言えない代わりに静かに頷く。
晋助さんも私の隣に腰を落ち着けると、そっと私の肩を抱いた。
「昔の男か?」
「違います……そうじゃないんです」
「だろうな、見るからに手の早そうな男だったからな。あれが昔の男なら、お前は俺と出会った時点でおぼこじゃあるめェな」
「………。」
何だか改めて口にされると恥ずかしいけれど、まぁ、晋助さんの言うことは間違っていない。
それは、私よりもずっと晋助さんの方が良く分かっている部分であると思うし、何よりそれは晋助さんが目にした事実だ。
「あの人は……私の初恋の人、なんです」
だから、きっと晋助さんは私の話を信じてくれると思う。
疑うとも思わないけれど、だけど、私はこの話を彼に聞かせたくないと思っている。
例えそれが他人からすれば他愛ないことであっても、取るに足らないことであっても、私は晋助さんに聞いて欲しくない。
そんな私の気持ちを汲み取ってくれたのだろう。
それ以降、何も言わずに黙っていた私を晋助さんは押し倒して笑った。
「お前さんの恋人は誰だ?」
「晋助さんです」
「なら、それはもう終わった話だ。話さなくてもいい、忘れなくてもいい、ただ…その胸に秘めておけ」
とん、と人差し指が私の胸元に当てられた。
こんな時、私はどこまでも彼は大人なのだと自覚させられる。
そうして、流れるようにブラウスのボタンに手を掛ける指先も、坂田先輩とは全然違うのだと思う。
58人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 美鶴さん» 過去作品に加え合作の方もお読み頂き、ありがとうございます。楽しんで頂けたようで、何よりです。現実では会う機会のない方との出会いがネットならではだと思うので、上手く活用していけたらなぁと思います。坂田嫁会は割と宴会でした笑。 (2018年9月26日 21時) (レス) id: b30e496864 (このIDを非表示/違反報告)
美鶴(プロフ) - 嫌味ではないです!笑応援しています!これからも頑張ってください! (2018年9月25日 23時) (レス) id: 960f3fe6a3 (このIDを非表示/違反報告)
美鶴(プロフ) - 凄く前にましろさんの作品を読ませて頂いてほっこりしておりました!合作の方も読ませて頂きました!とっても面白かったです!…オフ会…羨ましいです……坂田嫁会楽しそうですね! (2018年9月25日 23時) (レス) id: 960f3fe6a3 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 夜兎姫・ルナさん» お久しぶりです、ありがとうございます!!拝啓とは毛色の違う作品ですし、更新頻度もどうなるかは分かりませんが、楽しんで頂ければ幸いです。 (2018年9月17日 13時) (レス) id: b30e496864 (このIDを非表示/違反報告)
夜兎姫・ルナ(プロフ) - おぉ!1年ぶりの新作!! 拝啓シリーズを呼んでファンになった者です ましろさんが復帰するのを心待ちにしておりました!更新頑張ってください!応援してます! (2018年9月17日 8時) (レス) id: db897215e8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:月ヶ瀬ましろ | 作者ホームページ:http://twitter.com/hearty__smile
作成日時:2018年9月16日 21時