婚約 ページ29
幸せにしたいと思った。
こんな気持ちは初めてで、少しだけ照れ臭くて怖かった。
そんな私の頭を晋助さんは宝物にでも触れるかのように優しく撫でる。
「同じ気持ちだな、俺達は」
そうして愛おしげに私の名を呼ぶその人と唇を重ねた。
結婚を前提に付き合っていたその人は、私の婚約者になった。
＊＊＊
それから坂田先輩との打ち合わせまではあっという間だった。
広報との打ち合わせ、との事だったけれど来たのは坂田先輩一人で、私達は喫茶店の片隅で出来上がったカタログ案を挟んで向かい合っている。
「そうだな……全体的なイメージはこれで良いんだけど、もう少し配色を変えて欲しい」
「例えばどんな風に変えましょうか」
「3ページ目と7ページ目はもう少し明るい色にしてくれ。そうすりゃあ全体のバランスが今より良くなる」
「分かりました、調整しますね」
と、坂田先輩はやはり仕事中は結構真面目らしく、私が持ってきたカタログを隅から隅までしっかりと読み込み新たな指示を出す。
私はそれらをメモし、会社へとメールで送った。
すると、すぐに返事が返ってくる。
「こんな感じでどうですか？」
「おう、こっちの方向性で頼むわ」
「はい」
一通り仕事の話が終わり、互いに無言になった私達はどちらからともなくコーヒーを飲む。
あの居酒屋での一件以来、私達の距離感は曖昧なものとなりつつあった。
気まずくは無いけれど、何となく困る。
口から生まれたような坂田先輩が何も言わないと私も何を話したら良いのか分からない。
どうしたものかと考え込む私に不意に坂田先輩の笑い声が届いた。
「緊張すんなよ」
「別にしてませんけど…」
「じゃあ、忘れろよ」
この前のこと、と先輩が付け足す。
先輩はもう笑っていなかった。
「結婚するなら、もう、忘れろ」
その視線は私の左薬指に注がれていて、先輩は「おめでとう」と静かにその声を響かせる。
どう頑張っても祝っているようには見えないけれど、下手に笑って言われるよりはずっと清々しい。
だけど、だからと言って流すことは出来ない。
「どうして刺々しい言い方なんですか」
「別に？婚約者が居んのに、こうして俺と二人で会うのはどうなの？とか思ってねーよ」
「これは仕事じゃないですか」
「仕事だと思うのかよ、お前は」
どうして。
どうして、どうして。
この人は、いつもいつも惑わせるのか。
どうして、この人は。
「喜んでくれたって良いじゃないですか」
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月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 美鶴さん» 過去作品に加え合作の方もお読み頂き、ありがとうございます。楽しんで頂けたようで、何よりです。現実では会う機会のない方との出会いがネットならではだと思うので、上手く活用していけたらなぁと思います。坂田嫁会は割と宴会でした笑。 (2018年9月26日 21時) (
レス) id: b30e496864 (このIDを非表示/違反報告)
美鶴(プロフ) - 嫌味ではないです！笑応援しています！これからも頑張ってください！ (2018年9月25日 23時) (レス) id: 960f3fe6a3 (このIDを非表示/違反報告)
美鶴(プロフ) - 凄く前にましろさんの作品を読ませて頂いてほっこりしておりました！合作の方も読ませて頂きました！とっても面白かったです！…オフ会…羨ましいです……坂田嫁会楽しそうですね！ (2018年9月25日 23時) (レス) id: 960f3fe6a3 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 夜兎姫・ルナさん» お久しぶりです、ありがとうございます！！拝啓とは毛色の違う作品ですし、更新頻度もどうなるかは分かりませんが、楽しんで頂ければ幸いです。 (2018年9月17日 13時) (レス) id: b30e496864 (このIDを非表示/違反報告)
夜兎姫・ルナ(プロフ) - おぉ！1年ぶりの新作！！ 拝啓シリーズを呼んでファンになった者です ましろさんが復帰するのを心待ちにしておりました！更新頑張ってください！応援してます！ (2018年9月17日 8時) (レス) id: db897215e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：月ヶ瀬ましろ | 作者ホームページ：http://twitter.com/hearty__smile
作成日時：2018年9月16日 21時
