酔っ払いの流儀 ページ24
思わず顔を上げれば、紅い瞳に熱を孕んだ先輩が私を見つめていた。
酔っ払いの顔、いつの間に2つ目のジョッキを手にしていたのか、今日は一杯だと言っていたのに。
先輩の流儀、脆すぎないですか。
「昔はさ、俺に懐いてくれて……結構可愛いとこあったのに」
親戚のおじさんですか。
赤くなった顔がむくれたように歪んで、机上に乗った人差し指はトントンと小刻み良く音を鳴らす。
酔うと人は面倒臭くなる、とは言うけれど、先輩が酔った場面なんて死ぬほど見てきたけれど、この酔い方は初めてで、流石に戸惑う。
悪酔いともまた違う、何とも言えない酔い方が私の思考を奪っていく。
けれど、そんな事は先輩にとっては構う対象ではないらしく、ガタン、と重たいジョッキを置いてヒクッとしゃくり上げた。
「それがよォ…いつの間にどこの馬の骨とも知れねェ男作りやがって」
どこの馬の骨って、いや、本当に先輩どうしちゃったんですか。
今のは流石に吹き出しそうになって、すんでの所で堪えた。
戸惑いよりも笑いが勝ってしまったのは、何となく悔しい。
「つーか、どこの馬か分かんねー骨ならいざ知らず、よりによってディープインパクトの骨じゃねーかよ。金持ちで?イケメンで?CEO?は?お前いつの間に乙女ゲーのヒロインになったの?」
めちゃくちゃな台詞、そして例えの数々に私は思わずお腹を抱えた。
笑っちゃダメだ、ものすごく面白いけど笑っちゃダメだ、でも、ディープインパクトは流石にずるくないか?あと、古い。
けれど、先輩に私を笑わせてやろう、なんていう魂胆はないらしく、彼は至って真面目な顔で私を睨み付けた。
「しかも、なに、俺に対するお前の超塩対応。流石に、ムカつく。いや、傷付く」
「え……」
「お前は、そんな、冷たい子じゃあ……なかった」
と、先輩はむぅ、と口を尖らせる。
本人を目の前にして、こんなに不満をぶち撒けられるのか、と感心したくなるが、酔っているが故のことだろう。
だから、本来なら私も流して忘れるべきなのかも知れないが、それだけは、どうしても出来なかった。
「お前、俺のこと…嫌いだろ」
あんまりにも恨めしそうに言われたその一言だけは流せなかったのだ。
思わず、ガタンと椅子を鳴らして立ち上がりそうになって、それはどうにか堪えた。
「私のこと嫌いなのは…先輩の方じゃないですか」
決して言ってはいけなかったその一言に、先輩は否定も肯定もせず、ただ、黙って空になったジョッキの底を見つめていた。
58人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 美鶴さん» 過去作品に加え合作の方もお読み頂き、ありがとうございます。楽しんで頂けたようで、何よりです。現実では会う機会のない方との出会いがネットならではだと思うので、上手く活用していけたらなぁと思います。坂田嫁会は割と宴会でした笑。 (2018年9月26日 21時) (レス) id: b30e496864 (このIDを非表示/違反報告)
美鶴(プロフ) - 嫌味ではないです!笑応援しています!これからも頑張ってください! (2018年9月25日 23時) (レス) id: 960f3fe6a3 (このIDを非表示/違反報告)
美鶴(プロフ) - 凄く前にましろさんの作品を読ませて頂いてほっこりしておりました!合作の方も読ませて頂きました!とっても面白かったです!…オフ会…羨ましいです……坂田嫁会楽しそうですね! (2018年9月25日 23時) (レス) id: 960f3fe6a3 (このIDを非表示/違反報告)
月ヶ瀬ましろ(プロフ) - 夜兎姫・ルナさん» お久しぶりです、ありがとうございます!!拝啓とは毛色の違う作品ですし、更新頻度もどうなるかは分かりませんが、楽しんで頂ければ幸いです。 (2018年9月17日 13時) (レス) id: b30e496864 (このIDを非表示/違反報告)
夜兎姫・ルナ(プロフ) - おぉ!1年ぶりの新作!! 拝啓シリーズを呼んでファンになった者です ましろさんが復帰するのを心待ちにしておりました!更新頑張ってください!応援してます! (2018年9月17日 8時) (レス) id: db897215e8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:月ヶ瀬ましろ | 作者ホームページ:http://twitter.com/hearty__smile
作成日時:2018年9月16日 21時