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Thirty. ページ30

慌ただしい足音だった。
こちらに向かってくるそれが誰のものかなんて、見ずとも分かってしまう俺は変だろうか。


「立原ッッッ!!!!」


つまづいて転びかけた少女を抱き留める。
酸素を貪るような荒い息は珍しい。
滲んで揺れる紅が、目に飛び込んだ。
両腕を掴む腕の強さが____何となく語った。


「…中也さんがどうかしたのか」

「っすごい、熱で!私、運べない、どうしよ……っ助けて」

「分かった。アンタの部屋に運ぶが問題ねェな?」

「え、」


____なんでそこで顔赤くすんだ。腹立つ。


返答も反論も聞き入れること無く、上司の部屋に急ぐ。
俺の後に付いてくる真っ赤な少女。
汗の流れる首筋なんて見てしまったから、平常心が振り切れそうだ。
他の男の為に、っていうのがなおさら。


____あーっ糞、俺が、もっと……


考えて、止めた。
強さを求めようと、彼女を守るには足りない。
強く気高い彼女の全てを守るには、余りに非力。
こんなに苦しい胸の燻りは、口に出す事も出来ないのだ。

扉を開いた。
山積みの書類に目を疑った。
コレが違い。
彼の人と、俺の違い。
払い除けて、崩してしまいたい衝動に駆られたけれど、唇を噛んで抑えた。

異常な量の汗をかく上司を担ぎ上げる。
小柄だが、重い。
少し苦労したが、なんとか部屋に運ぶことが出来た。
彼女の部屋を選んだのにはきちんとした理由がある。
この本部で恐らく首領の次に良い部屋だと思われるこの部屋は、空調設備が徹底的に管理されているのだ。


「……汗」

「仕方ねェだろ我慢しろ。後で新しいシーツ買ってもらえ」

「__ねぇ、大丈夫よね?死んだり、なんて」

「はぁ?」


馬鹿げてる。
この人がそんな事で死ぬ訳____と言いかけて口を噤む。
本気で心配してるのだ。あの我が儘娘が。
動揺に揺れる瞳と、俯く不安そうな表情。
悔しくなった俺は、少し震えるその肩にそっと手を置き、頭を撫でた。

目が、合う。
胸が、軋む。


「大丈夫だ。安心しな。
この人はウチの最強幹部だからな。こんなんで死んだりしねェよ。
…まぁアンタの看病次第だけど」


何か冷やすものと水分を取ってくる、と部屋を出て壁に寄りかかる。
手で髪を乱して、天井を仰いだ。
早鐘のように鳴る胸を鎮めるように、息を吐いた。


「彼の人に、なりてェな……っ」


____『怖くねェよ。安心しろ。』



どんなに似せようとしても、代わりになれない。
焦がれるほど、痛みが増すのが苦しかった。

【番外】夏が君を祝福する。【立原道造】→←Twenty-nineth.



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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 中原中也 , 立原道造   
作品ジャンル:アニメ
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一華 顕音(プロフ) - GALAXYさん» コメントありがとうございます!番外編が完成しましたので、良ければ呼んでください! (2016年8月10日 21時) (レス) id: f13dd29270 (このIDを非表示/違反報告)
あっぷるぱい猫系女子 - 此奴等が可愛すぎて大声上げて発狂しそうです (2016年8月6日 20時) (レス) id: 26e00e8d74 (このIDを非表示/違反報告)
華京院アリス - お久しぶりです。立原がいいぐあいに出てきますね!夢小説であんまり出てこないので新鮮です。あと、中也がだんだん惹かれていく感じがまたたまりません!改めて中也好きだなと思いました。文ストのなかで一番いい話ですよ!これからも更新頑張ってください!待ってます (2016年8月1日 15時) (レス) id: 0f9149ddd8 (このIDを非表示/違反報告)
- あぁぁぁぁぁぁぉぁあ!(歓喜)どっちも応援したい! (2016年8月1日 10時) (レス) id: 53c8339ac2 (このIDを非表示/違反報告)
ひよこリュナ(プロフ) - ああああ(((立原君に頑張ってほしいけど…やっぱへたれちゃんな中也君に頑張ってほしいです!!!! (2016年8月1日 9時) (レス) id: eef97769f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2016年7月10日 23時

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