【文スト】 中 原 夫 人 (仮)【中原中也】

Twenty-five. ページ25

青年は足早に近付き、私の顎を掴み目を合わせた。
怒りを含んで揺れる蒼い双眸は、矢張り彼の人とは違うのだと再認識した。
昂りを抑えようと、小刻みに吐いている荒い息が鼻にかかる。
彼をここまで変えてしまったのは、彼がまだ真実を知らずにいるからか。
それとも知っていても尚、彼の人を怨まずにはいられないのか。

蒼い双眸を睨みつけ、Aはゆっくりと口を開く。


「貴方は、孤独を知ってる。その孤独から救ってくれたペテン師を信じ、そのペテン師の狗となってきた。
そしてソイツを彼の人が殺したわ。貴方の恩人、貴方の全てを。
だけど、貴方が信じたペテン師が貴方を生かしたのは貴方のその素敵な異能力“だけ”が欲しかったから。
貴方が信じたものは、初めから貴方を認識などしていないわ」

「黙れよ…っ！！勝手な事言ってるんじゃアないよ……何も知らないくせに！
全部持ってるお前に俺の孤独が分かるか!？自分の名前すらも知らない、俺の哀しみが。
彼の人に出会うまで、俺は亡霊だった。だけど！彼の人が俺を人間にしてくれた！俺はやっと“俺”になれたんだ！！

なのに！っ彼奴が！中原中也が！俺の全てを奪っていった！また俺は、俺は……っ！自分の存在を無くした！その痛みがお前に分かるか!?」


＿＿＿＿孤独。
人が最も忌み嫌い、人を最も変えてしまうもの。
名前も、温もりも知らなかった彼に全てを与えた其の男はもういない。

彼がしたいのはきっと敵討ちでもなんでもない。
彼はただ、自分がここで生きているのだと、そう叫びたいだけなのだ。


＿＿＿＿嘗ての私が、そうであったように。



「だからさァ……俺も壊そうと思って」


＿＿＿＿え？


弱々しい光は、軈て獣の熱を灯して。
壊れたように笑う青年に、押し殺した恐怖心が溢れ出した。


「や、やめて！！触らないで！っ兄様！！！！」

「！ナオミさんに何するの!?今すぐあの男達を止めなさい！」

「君も俺と同じ。孤独に生きた人形だろ？なら君は＿＿＿＿その温もりを傷つければ壊れてくれるかなって」


男の高笑いと、少女の悲鳴。
バラバラと音を立て始めた“何か”が、私をどうにかしようとしている。

触らないで。
私の、友達に触らないで。
私の友達を傷付けないで。
壊さないで。
許さない。絶対に、許さない。



＿＿＿＿助けて、目が熱いの。
＿＿＿＿動悸が激しくて壊れそうなの。
＿＿＿＿私が、ワタシで、いられなくなりそうなの。



「＿＿＿っ」



手に握ったそれが、私の本質。

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