【文スト】 中 原 夫 人 (仮)【中原中也】

Twelfth. ページ12

泣きそうな顔を見つめる。
どちらももう視線は逸らせない。
沈黙の中、掠れた声は情けないほど震えた。


「“Scarlett”の意味、は＿＿＿＿“みだらな”って意味。私が、彼の女の想い人の想い人になった。
昔から、そういう事って良くあって。
だから、彼の女は私を恨んでる。そんなことで、って思うかもしれないけれど、彼の学園ではそんな事でさえも引き金になる。
私が貴方に出会ったあたりから、ずっと嫌がらせを受け始めた。最初は可愛いものだったから気にしなかったわ。だけど、次第に、酷く、なってきて……っ」


その目に涙が溜まるのが見えた。
あんなに強気な小娘も、やはり1人の女なのだと今更ながらに自覚した。
隠して、気丈に振舞って、耐えて。
恐らく今までもずっとそうしてきたのだこの少女は。
そして、この少女にはそれが出来るだけの強さが有るのだ。

中也は掴んでいた片手を離し、Aの頭を自分に寄せた。
一瞬強ばったのが分かったが、安心させるように数回頭を撫でればそのまま体を預けた。



「いいか。よく聞け。
手前ェは強い女だ。これくらいで屈しないのも分かってる。

＿_けどな、今手前ェは俺が預かってんだ。だから手前ェは俺の身内。
これ以上傷付けるってんなら、俺は手前ェが受けた傷の倍にして其奴等に返してやるよ。

だからもう無理すんな。
意地っ張りなのは構わねェが、他人に傷なんて付けられてんじゃねェ。
手前ェはもう俺のいないところで泣くな」



出来るだけ優しい声音でAに囁いた。
震える肩には触れず、胸に押し付けた頭をただ撫で続ける、
それが不器用な中也に出来る精一杯だった。

それに応えるように、恐る恐るAは中也の服の裾を掴んだ。幼い子供が親に縋るように。
その様が新鮮で、意外で、中也は笑みを浮かべた。
なんだ、可愛げあんじゃねェか、と。


「ねぇ……っ」

「あ？なんだよ」

「靴＿＿＿＿左右逆よ……っ」

「＿＿＿＿嘘だろ」


下を向いて肩を震わせていたAだが、泣いていたのでなく、とっくに涙は乾いており中也の左右逆の靴を見てわらっていたのだ。
思いの外中也が真剣に話しているので言い出せなかったのだが。



「真剣に、ふっ、話してたから、い、言えなかったけ、っあははははは」

「手ン前ェ…ッ！俺の優しさ返せ莫迦！」

「もう、ほんと何貴方…っふはっ…ちょ、今此方向かないで……っっ」




恥ずかしさに埋まりたくなったが、屈託も無く笑うAを見て中也は安心していた。

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