*ﾟ*金魚花火5*ﾟ* (ページ8)

今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:348,387 hit

【１０８】ページ8

・

・

わあわあと、遠くで騒いでる声

水だ、もっと水を出せ！……って

そんな、無粋な声が聞こえる。

・

・

和也「……A？」

・

・

ふ……と。和也が身体の力を抜く。

一瞬走った緊張を解いて、彼はきっと微笑んでる。

・

・

和也「やめとけ、こんなろくでもない男」

・

・

一歩、彼は足を前に出した。

二歩、三歩……現実へと戻っていく。

・

・

和也「智がいるだろ？……それに、今のお前には翔ちゃんとかさ

頼れる人が他にもいるだろ」

A「………でも…」

・

・

なんだか眠くなってくるのは、煙を吸い込んだせいかな。

熱さも徐々に遠ざかる。

・

・

和也「俺はやめとけ。頼るべき大人を間違えるな、想いを寄せる相手を誤るな。

俺じゃお前を幸せになんてしてやれない。お前だけを守ってやることももうできない。

だから……、もしさっきの言葉が意識の朦朧とする中、口走ってしまった失言でないにせよ

それが本心だっていうんなら、さっさと諦めて次に行け」

・

・

おい、隊長だ！隊長と、お嬢が……―――。

終わりの合図が聞こえ始める。

・

・

和也「俺も、諦めるから」

・

・

私を抱く、その力が急に一際強くなり

その足取りがもう一度だけ、止まる。

・

・

これは幻じゃない、現実の貴方が

私の耳に唇を寄せて、囁くの。

ぴちゃん……って、魚が跳ねたときに立つ小さな音と

小さな波紋のように、すぐに消えてしまう言葉だけれど

そこにあったことを確かに知っている人は、消えてからもしばらく水を見つめてしまう

そんな言葉を、囁くの。

・

・

・

和也「俺も好きだよ、……だから諦めてくれ」

・

・

・

力が、緩んだ。抱き上げていた私を、降ろす。

駆け寄ってくる人たちの中に、白衣がひらめくのが視界に映ったのが最後

そこで意識が遠のいていく。

・

・

ねえ、それって私たちは両想いだってことなのかな？

跳ねた音だけして、あとは姿を探せど見つけられない。

だけど、聞き間違えなんかじゃないと信じて

私は意識を手放せばいいのでしょうか

・

・

叔父さま、って呼ばなくちゃね。呼ぶって決めてたのにね。

幻だって言い訳はもう通用しないから、今度起きたら諦めるつもりよ、だから

・

・

二度と目なんか覚めなくていい、本気で願って目を閉じた。

・

・

・