三十。 ページ33
「久しぶりの心中だねぇ」
「うん」
太宰と瑞香は手を繋いで、ポートマフィア内の廊下を進んでいた。
太宰は笑みを浮かべていた。
二人に、陽気な雰囲気は一切ない。
二人がポートマフィアに加入してから、約一年。
其の間、二人の心中は30回程しか行われなかった。
此れでも充分に多いだろうが、太宰と瑞香が出逢ってから、ポートマフィアに入るまでの約一年では、150回以上行っていた。
一週間辺り三回前後である。
其れに比べれば少ないものだ。
また、一ヶ月前に行っていたとしても、久しぶりと云えるのだった。
「ねぇ、太宰」
「なんだい、A?」
「太宰は見付けた?」
瑞香がそう訊ねると、太宰は其れまでの笑みを消した。
瑞香は太宰を見た。
瞳は闇をみており、紅の瞳は赤褐色にも見える。
「……私達が自 殺を繰り返すのは、生きる理由や価値を見付ける為」
「……急にどうしたんだい?」
太宰も瑞香を見る。
瑞香は太宰の問いには答えずに、淡々と述べ始める。
「生きる理由も価値もないのに、生きる事に執着するのは何故? ……けど皆は疑問に思わない」
太宰は下を向き、再び瑞香を見た。
瑞香は泣きそうな顔をしていた。
辛そうに顔を歪め、幼子の様な雰囲気だった。
「もしかしたら、私が知らないだけで、皆は生きる理由や価値__人間の本質を知っているのかもしれない」
「……」
「独りだけ知らない。其れは厭だ。ずっと独りで居たくない。だから、私は求め続けている……」
太宰の手をぎゅっと握り、瑞香は弱々しく呟いた。
瑞香が、こうして溜めていたものを吐き出すのは、此れが初めてではない。
過去に同じ様に呟いたことがあった。
けれど今は、其の時よりもとても弱い。
其の時よりも闇を見ている。
「けど最近は……本当は、皆も」
瑞香が何かを云いかける。
しかし其の前に、太宰が瑞香を抱き締めた。
「其の先は云わないで」
太宰は瑞香をきつく、きつく抱き締めた。
微かに、躰が震えていた。
「……ごめん」
瑞香は謝り、抱き締め返す。
すると太宰は一気に力を弱め、弱々しい叫びを上げる。
「何時かは判る筈だ。……否、判る。だから、云わないで」
「……うん」
二人は、暫く其の儘でいた。
__本当は、皆も知らないのかな。
其れが、二人にはとても恐ろしかったのだった。
__
太宰さんに対する考察も混ぜました。
質問あれば、遠慮なくどうぞ!
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作者名:日之静海 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年9月13日 21時