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十五。 ページ18

本をパタリと閉じて、瑞香は顔を上げる。
そして首を左右に傾けて、肩の凝りを解した。

森は其れに気付いて、資料から顔を上げて、瑞香の方を振り返る。

「読み終わったかい?」

森の問いに、瑞香は首を縦に振った。

「……太宰はもう行った?」

「其の様だね」

瑞香は周りを見渡すと、座っていた場所から降りて、本棚に本を戻しに行く。

「……Aちゃん」

「何?」

森に呼掛けられ、瑞香は振り返らずに返事をする。
並べられている本の背表紙を、指でなぞる。

「太宰君にも訊いたのだけどねぇ……何故君は死にたい?」

瑞香は、其の問いにピクリと肩を震わせた。
そして、背表紙をなぞる手を止める。

後ろを振り返り、きょとんとした顔を森に向ける。
森を見る目は、何処までも純粋なものだった。

「私こそ訊きたいよ。生きるなんて行為に何か価値があるって、本気で思ってる?」

『僕こそ訊きたいね。生きるなんて行為に何か価値があると、本気で思ってるの?』

森は、瑞香の云った事と、つい先刻太宰が云った事とを、シンクロした様に聞いた。

口調は違えど、内容は全くの同じものだった。

先刻の森は、太宰の云った其の先を訊かなかった。
けれど今の森は、瑞香の云った先を訊いた。

太宰と同じ様に、瑞香を少しでも理解する為に。

「続きを訊いても?」

「……太宰には訊かなかったのに?」

瑞香は本を一冊持って、森の前の医療用スツールに座った。

「聞いていたのかい?」

「違う、唯の予想。……と謂う名の事実」

そう答えた瑞香に、森は苦笑いをして、肩を竦めた。

けれど、其れ以上は何も云わなかったので、瑞香は先刻の問いに答える事にした。

「だって、生きた所で、死 ねば何も遺らない。死 ねば凡て終わり。

必死に生きても、死 んだ自分に何か遺す訳でもないし、何も要らない。
必死に生きても、誰かに何かを遺す事なんてないし、遺した人も死 ねば、其れで終わり。

数十年も経てば、自分と謂う存在が居た事も、生きていた事も、凡て忘れられる。
遺りなんてしない。

じゃあ、生きる価値って何?
何の生産性もない此の行為に、何か価値はあるの?
無いよね。
必死になって生きても、何も遺る事なんて無いのだから。

じゃあ、皆が生きる意味って、」

「其所までだ」

森の静止の声が掛かる。
瑞香は大人しく口を閉じ、持ってきた本を読み始めた。

__
私が常日頃思っている事、Aちゃんに語って貰いました。
一寸スッキリです←

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作者名:日之静海 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年9月13日 21時

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