十二。 ページ13
マフィアビルに入り、最上階の首領部屋まで、真っ直ぐに案内される。
「首領、森と其の連れです。診察に参りました」
マフィアビルの受付。
最上階に着いた後、首領部屋の扉を守る護衛に向けて。
そして、部屋に居る首領に向けての三回、森は同じ事を繰り返し云った。
太宰と瑞香は何も云わない。
唯々黙って、森の後を付いて行った。
返事を待たずして、森は扉を開ける。
森、太宰、瑞香と部屋に這入ると、瑞香は扉を閉めた。
部屋には、三人に首領を含めた、四人しか居ない。
森は、恐らく首領が眠っているであろう寝台に近付く。
太宰と瑞香は、寝台から離れた、窓の近くに立つ。
手は繋がれた儘だ。
「御加減は如何ですか、首領」
何時もより落としたトーンで、森が首領に訊く。
首領は動かぬ儘、嗄れた声で云った。
「
其の時、瑞香は興味無さげに、後ろの窓の上部を見た。
出た時は夕日が照らし、空が鮮やかな橙色だったが、今は暗い。
深い闇に包まれていた。
視線を首領と森に戻す。
太宰の方はと云えば、初めから変わらず、視線を外すことなく、じっと見ていた。
首領は、ポートマフィアに逆らう者は皆殺 せと、嗄れた声で叫んだ。
其所に籠められていたのは、唯々純粋な殺意。
病に倒れて尚溢れ出る、唯『殺 す』事に囚われたものだった。
「首領。其れは、非合理的です」
非の部分を強調して、森は注意する。
此れは、所謂『最後の警告』なのだろう。
此れから起こそうとしている事の__。
「此方は何人死 のうと構わん。殺 せ、唯殺 せ、殺 すのだ。殺 せ、殺 せ、殺 せ……__」
壊れたカセットテープの様に、『殺 せ』と繰り返す首領。
ある種の呪いの様だ。
此の返答をした事で、首領の道は決まった。
瑞香は一度目を瞑る。
次に目を開けた時、森は首領の首筋に、メスを当てていた。
「判りました、首領」
首領は静かに、首領の首を切った。
離れた壁にまで血が掛かる。
遅れて、シーツに血が滲み始める。
森は屈んだ背を伸ばすと、大きな声で語り始める。
部屋は防音の為、外の護衛には聞こえない。
「首領は病により、横死された。次期首領に私を任ずると、遺言を遺されて__」
森は振り向くと、濁った笑みで云った。
「__君達が証人だ。佳いね」
其れは否定を許されない疑問だった。
そして太宰も瑞香も、何も云わない。
唯、濁った瞳で見返していた。
50人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:日之静海 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年9月13日 21時