十一。 ページ12
再び訪れる沈黙。
次に沈黙を破ったのは、森だった。
「そう云えば、Aちゃんの苗字は、どうするのだい？」
森が優しく笑い掛け乍ら、Aを見る。
因みに運転席とは、カーテンで遮られており、小声なら届かない。
よって、今の声は凡て小声だ。
「……前のは厭」
「そうだよね。何か佳いのは……」
森が考える素振りを見せる。
しかし佳いものが思い付かない様だ。
「……『
今まで、会話に参加していない様に見受けられた太宰が、唐突に口を開く。
「瑞香……？」
Aが鸚鵡返しに訊ねる。
太宰はコクリと首肯くと、微笑んだ。
「『瑞香』と云うのは『沈丁花』の別名さ。因みに沈丁花の花言葉は『不死』、『不滅』、『永遠』。……どうだい？」
「悪くない。
けど寿命百年で、不滅や永遠って、何か違うと思う。そして、自 殺志願者の私には厭味に聞こえる」
顔をしかめ乍ら、不満を述べるA。
悪くない、とは一体、何だろうか。
「百年後までは続くのだから、不死や不滅と云っても過言ではないと思うよ」
苦笑いを浮かべ乍ら、森は意見を述べる。
「私達は、百に達する前に亡くなるだろうし、其れが寿命なのか、人為的なものなのかは判らないからね。若しかすると、百歳より生きるかもしれない」
「森さん……」
「リンタロウ……」
二人は同時に、森を呼ぶ。
其の声は、何処か感動している様にも聞こえる。
彼等の瞳は潤んでいた。
しかし、＿＿
「「だから其れ、すっごい厭味」」
＿＿実際は、とても厭がっていたのだった。
見るからに、厭そうに歪んだ二人の顔に、森は素直に「す、すまないね」と謝ったのだった。
「と、取り敢えず……Aちゃんは、瑞香A、で佳いんだね？」
「其れ以外思い付かないから、其れで佳い」
A＿＿瑞香は首肯く。
其の時、車が止まった。
後部座席の扉が開かれる。
どうやら目的の地、ポートマフィア本部ビルに着いた様だ。
三人は無言で車を降り、ビルの中に入っていく。
＿＿もう、車の中の様には、戻る事はないのかもしれない。
三人の内の誰か、或いは全員がそう思ったのだった。
＿＿
以後、三人称の語りでは、Aを瑞香と記述致します。
……え、何です？
何時もそうだけど、急なシリアスだね、って？
……否、本当に、ごめんなさい。
御許し下さい。
此れ以外に入り方、判らないんです(＞_＜)
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作者名：日之静海 | 作者ホームページ：
作成日時：2018年9月13日 21時
