25 ページ25
「……え、もしかして鳥井君、一番後ろ？」
若干反応が遅れるも、彼女のその問い掛けにゾムが首を縦に振る。するとその返答にAは嬉しいやら恥ずかしいやら、色んなものを含めたような表情ではにかんだ。
「よ、よろしくね？」
そう言った彼女がゾムの隣に自分の机を置いた。その様子を呆然と見ていた彼はようやく目の前で起きている出来事を理解すると、ぱっと笑みを咲かせた。
「おお、隣Aさんか！ やったわ！ これで授業中でも喋れるやん！」
「い、いや、流石に授業中は、ね……？」
隣同士になったことでこれから話せる機会が増えることにも、自分が隣の席になったことに喜んでくれる彼にもAは正直嬉しいと思った。しかし彼の無邪気な声で発せられたとんでもない言葉には流石に頷けず、苦笑いをせざるを得なかった。
これからちゃんと授業に集中出来るだろうか。そんな一抹の不安が彼女の中で過ぎった。
✳︎✳︎✳︎
静まり返った教室内には女性教諭の声と黒板を叩くチョークの音だけが響いている。彼女の口から出る数式が次々と黒板に刻まれていく。それを生徒達が一生懸命に自分の手元にあるノートへと写していく。
しかし数学に出てくる単語と言うものは一部の人間にとってはまるで呪文のような存在で。それにかかったものはもれなく眠りの穴へと誘われてしまうのだ。そして後に起きた者は皆こう言うのだ、呪文を吐く魔法使いが悪いのだと。
ここにも一人、その術にハマってしまった者がいた。ゾムは前の席の男子の影に隠れながら、一応教科書やノートを広げた机の上で突っ伏している。この状態になってから一体どれほど時間が経っただろうか。随分長い間彼の体はピクリとも動いていない。
もうすぐ授業が終わる頃になってようやく呪文が解けたのか、彼が微かに身動きをする。のそのそと緩慢な動きで上体を起こし欠伸を一つ。寝惚け眼で黒板上の時計を見て、状況を把握した彼は早く授業が終わらないかとつまらなさそうな顔で頬杖をついた。集中する気はゼロだった。
あと少しだけ、どう時間を潰そうかと思いながら何気なく隣へ顔を向けるとノートにペンを走らせる彼女の横顔が視界に映った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
抹茶ちよこ(プロフ) - 瑞稀さん» コメントありがとうございます！面白いと言って頂けてとても嬉しいです！これからもどうぞ温かい目で見てやって下さい。ありがとうございます！ (2022年4月17日 12時) (
レス) id: ea5fcbb4a4 (このIDを非表示/違反報告)
瑞稀(プロフ) - うわぁ〜〜！！本当に面白いです！！まさかのライバル？！誰なんだ…続きも楽しみにしてます！ (2022年4月15日 0時) (レス) @page39 id: 503fd2a4ac (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：抹茶ちよこ | 作成日時：2022年3月14日 15時
