花の令嬢は平穏に生きたいのです。＃４

episode２３ ページ23

「子供の頃読んだ絵本…って、覚えてる？」


音が帰って、家へ向かう道の途中。

ふいにそう問えば、天馬は分からない、という顔をしつつも、嫌がる素振りを見せず、答えてくれた



「…あんまり覚えてないかも。なんていう本？」



「…『むらさきの花のひめ』…って本、」




四角い、可愛い女の子のイラストの絵本。


私は、小さい頃は本当に病弱で。

家と病院との行き来ばかりをしてたものだから、本だけは本当にたくさん読んだ。だからもちろんその話も読んだ。


だけど。別に、お気に入りだったわけじゃない。


ただ………、愛莉が好きだった本。



そんな印象の、絵本。


「どんな話だっけ？」


「ある国に…誰からも愛されるお姫様がいるんだけど、夜になると、美しい紫の花に変身して、誰も嗅いだことのないようないい匂いで、引き付けて…、近づいてきた人を……取り込んで……、」





こんなの、絵本にしては、残酷すぎる。




「…っ…………食べちゃうの。」



「最後はどうなるんだっけ？」



「…それが…思い出せなくて」


朧気な記憶の中で、その結末がどうなるか、



全然覚えてないけど…、




ハッピーエンド、って訳ではなかった。



「………、」




「もしかして、神楽木やあの女の子のこと気にしてる？」


「…少しだけ」



「まぁでも。僕はそんな優しいAのことが好きなんだけどね」



「……っ、」

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