瞬きほどの (ページ3)

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呆けた顔がなんとも無様だ。

まさか殴られるなんて、彼は夢にも思わなかっただろう。

だって私はいつだって彼にとって最高に可愛くて従順な彼女だったのだから。

「彼に何するのよ！」

女の金切り声が響く。

何するのよ、だなんてコッチの台詞だ。

人の彼氏を奪っておいて、どの面を下げて正義のヒロインぶっているのだろうか。

怒りを通り越して呆れしかない。

彼はこういう女が好きだったのだろうか。こんな無知で恥を知らず恋で盲目になり善悪の判断もつかなくなる様な、脳味噌のか弱い繊細な女が。

私は何で彼のことが好きだったのか分からなくなった。なんで、こんなにも馬鹿な男が好きだったのか。

もう、その場に居ることすら辛くて、まるで水の中に居るようだった。

涙で景色の輪郭はぼやけたし、無理に泣くのを我慢したせいで息も苦しくて。

浅い呼吸になれば同時に思考も浅くなる。

それでも、この馬鹿な男とヒロイン気取りの女に涙なんて見せたくなくて血が滲むほど唇を強く噛んで堪えた。

「そんな人だったなんてしらなかった。」

こんな在り来たりな使い古された台詞しか出てこなかった。

それが限界だった。口を開けば泣き出してしまいそうだったけど、意地で堪えた。

それだけ言って私は店を出た。

本当は、思いっきり走り出したいくらいだったけど、それもやっぱり、私が逃げ出したみたいだなんて意地を張って、冷静で居るように見せたくて、歩いて店を出た。

今思えば、二人とも私が必死に堪えてた顔を見ていた訳だし、何の意味も無い行動でなんだか馬鹿馬鹿しくて悲しくなる。

その後の事はあまり良く覚えては居ないけど、気が付いたら私は初めて行くバーに辿り着いていた。

自棄になっていた私はとにかく度数の高いお酒を浴びるように飲んだ。

もともとお酒には強かったので酔っ払った事も殆ど無かったのだが、もう全部忘れてしまいたくて飲みに飲みまくった。

大分飲んで、思考がフワフワと纏まらなくなった頃、隣に顎に独特の手術痕のある男が座った。

男はの髪型はツーブロックに整えられた髪を後ろに撫で付けてあり、顔はあまりイケメンと言う枠には属さないような感じだったが、不思議と人を惹き付けるような魅力があった。

「お前、随分飲んだようだな。見たところ自棄酒っぽいが、どうした？男にでも振られたか？」

「煩いわね。振られたんじゃない。私から振ってやったのよ！」

男の言うことは正に図星で、私は剥きになって言い返した。