満月の夜、桜の下で【高杉晋助】 (ページ44)

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紙と筆ページ44

桜月が帰ってきてから私は高杉さんのことばかり考えていて、小太郎さんの名前を間違えずに呼べたのか自信がない

ねぇ、高杉さんあの首輪の意味は

私に来てほしい

私に会いたい

そうとって良いんですか？

確信がなくて不安が少し残るけど、あれは高杉さんがやったもので間違いないだろう

静かな夜、布団の中で1人悶々と昼間の出来事に思考を巡らせる

小太郎さんも首輪のことには気づいたみたいだったけど、準備しておいた「どこかで落としてきたみたい」の言い訳で押し通した

まさか高杉さんが付け替えたなんて言えるはずもない

私の布団の中で眠る桜月からはまだ少し高杉さんの香りがあって、彼が隣にいるみたいでドキドキと脈打って寝付けないでいた

どうしてあの人の、高杉さんの香りはここまで強いんだ

好きな人の匂いは安心して眠れると言い出したのは誰なんだ

高杉さんの香りに包まれて眠る、なんていう妄想をしたおかげでボンと爆発音でもしそうなくらいに頭も顔も沸騰して、勢い良く起き上がってしまった

冷静になりたくて、襖を開けて縁側で夜風に当たるが高杉さんが堂々巡りして冷静になんてなれない

高杉さんからの想いがいつの間にか私からの想いにすり替わっていた

すり替わってるというより、いつの間にか同じになっていたのだろう

本当は今すぐにでも彼に会いに行きたい、抱きしめてほしい、あの煙の香りがする口付けがほしい

だけど、今夜は満月じゃない

満月の晩にしか彼には会えない

頭では分かっているのに身体が彼を求めているのが痛いくらいに分かる

衝動的に家を抜け出そうとする自分を強めの意思で押さえ込み、何とか留まることができている

それでも私の本能はおかしな事を思い付いて身体を動かす能力があるようで、机に紙と筆を用意させる

頭を使わずとも真っ白な紙に黒い文字が生を持ったかのように浮かび上がる

誰に宛てた手紙かなんて言わずとも分かる

渡す方法もないのに私は彼に手紙を書いていた

…否、1つだけ高杉さんに届く術を私は知っている