待ち人 ページ42
- 高杉side -
今月もまた満月が夕闇に浮かぶ
俺はまた1人、すっかり桜も散り果てた木の下で来るはずもない女を待つ
1人で見る月にはもう飽きた
2人で見る月はいくら見てても飽きやしねえ
まあ月を見てるのかAを見てるのかは分かりやしねえがな
チリチリと聞きなれない鈴の音が背後で聞こえ、振り向けば見慣れた黒猫が姿を現した
挨拶代わりににゃあと鳴けば、さも当然かの様に俺の膝に乗り丸くなる
首輪が付いているところを見れば、この1ヶ月の間に誰かの飼い猫になった事くらい想像がつく
高「お前の待ち人は来たようだな」
顎下を擽ってやればまたゴロゴロと喉を鳴らす
その隙に首輪に付いていた札を見れば、此奴の名前らしい "桜月" と住所が記されていた
名前の読み方は検討もつかないが、文字を見た途端、1人の女がパッと思い浮かんでくる
住所もAが住んでいる辺りだったか
高「まさかとは思うがお前さん、彼奴のとこの猫になったのか?」
そう問えば、そうだと言わんばかりに鳴く
此奴の首輪や名前をズラと一緒に選んだところを想像しただけで、胸がグッと熱く痛いと喚き散らす
いつしか生まれたどろりとした独占欲が面白いことを思いつかせる
懐からこの黒猫に似合いそうだと思い取り寄せた首輪を取り出す
ズラと選んだであろう水色の首輪から紫の首輪に取り替え、元々付いていた迷子札も付け直し、水色の首輪を懐に仕舞う
高「こっちの方が似合ってるぜ
なァ、お前もそう思うだろう?」
心なしか黒猫が嬉しそうにしているのは俺の思い過ごしか
それでも俺の手に頭や体を擦り寄せて、クルクルと鳴いている
高「お前の待ち人は来たんだ
俺の待ち人も来るよな」
強気なことをしたにも関わらずいつになく弱気なのはAが隣にいないから
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作者名:るう | 作成日時:2022年9月20日 18時