噂 ページ25
- 高杉side -
女と出会った
そいつは見た目こそ普通なのに、言うことは普通じゃねぇ
初めて会った夜、俺に向かって "友達になってください" と言い放った
面と向かってそんな寒いこと言う奴この世に存在するのかと呆気にとられたくらいだ
しかも嫌という程に聞き馴染みのある "桂" なんていう姓を持つ女
身長も体型も髪型も顔も全部が全部普通で、逆に言えば非の打ち所がないとも言えなくもねぇ
噂じゃ聞いたがこの普通な女がズラの女か――
そして何といっても桜がよく似合う女だと思った
ぶわっと俺の心を騒がせたのはこの女なのか、それともズラへの悪戯心が俺を突き動かす原動力か、そんなの考える余地もねぇ
ひらひらと散っていく桜の中にいる此奴は儚くて素直で綺麗
俺にもわずかに残存している俺の童心が、此奴が欲しいと叫び騒ぎ立てる
――チッ…こんなのは初めてだ、五月蝿くて仕方がねぇ
騒がしい心を悟られないように…此奴には絶対に分からないだろうが、まだ肌寒いこの日に薄着でいるこの女に自分の羽織を投げつけた
俺の羽織を受け取れば女は若干困惑したようだが、すぐに二ッと効果音がつきそうな程に口角を上げて微笑んだ
また柄にもなくザワリと俺の心を騒がしくする此奴は策士じゃねぇのかと疑う程に美しかった
そして何かを決心したような顔つきをする
まあどうせズラには隠しておこうとかそんなところだろう
そっちの方が俺にとっても都合が良いのか悪いのか知りやしねぇが、此奴の頭を俺で支配できるのならそれで良かった
満足したところで船に帰ろうとして立ち上がれば名を聞かれ、高杉とだけ名乗りその場を後にした
――何年ぶりだ、人を綺麗だと思ったのは
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作者名:るう | 作成日時:2022年9月20日 18時