満月の夜、桜の下で【高杉晋助】 (ページ21)

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予想通りページ21

「これが夫と初めて会った時のお話です」

高「とんだ茶番だな」

私はまたあの桜の木の下にいた

彼と…高杉さんがいると言っていた満月の晩に――

丘を登り切り桜の木の下を確認すると以前会ったときと同じ紫色の着物に金色の蝶がひらりと舞う彼がいた

「高杉さん」と声をかけると彼は「本当に来たのか」と半ば呆れたような顔と声で私に応答してくれた

ある意味予想通りできゅっと胸が苦しくなるのは悲しいからなのかそれとも嬉しいからなのかはこの際どうでもいい話だった

図々しくも遠慮がちに高杉さんの左隣に座り、彼の顔を見るとじっと満月を見て煙管を吹かしている

そんな高杉さんは、何というか…妖しく美しい、この言葉がよく似合う

思わず口に出しそうな意味不明の言葉を出さないのに必死で私が一方的に高杉さんを見ているという摩訶不思議な状況が生まれてしまった

そんな私の視線に耐えかねたのかどうかは分からないが「旦那との馴れ初めでも話せ」と命令口調で私に言う

高杉さんの言葉が私の耳を通り脳に響くのが痺れて堪らない

身体の真ん中らへんがムズムズとくすぐったくて、小太郎さんに内緒で夜中に出掛けた時とはまた違った感覚に襲われて、自然と口角がだらしなく緩んでしまう

そんな経緯で私は小太郎さんとの出会いを掻い摘んで高杉さんに話していた

好きな人のことを好きな人に話すのはなんとも不思議な感情を生み、モヤモヤとしたり、温かくなったりと喜怒哀楽のどれにも当てはまって当てはまらない、そんな感じだった

高杉さんは時折、相槌の代わりに煙管の煙をふぅッと大きな月に吐きかけ私の拙い話を静かに聞いていた

この日が来ることをどれだけ楽しみにしていたかなんてこの人にははかり知れないだろうけど、そんなことはどうだっていいくらいに高杉さんとの会話が楽しくて時を忘れてしまう