忙殺 ページ18
- 数年前の春 -
私は江戸にそびえたつターミナルで朝から晩まで…いや、朝から翌朝まで働いていた
所謂、社畜である
街の同じ年頃の娘たちは華やかな着物に愛らしい簪をつけた髪形に、街を楽しそうに友人や恋人と歩いたり、茶屋でのんびり過ごしたりしている
そんな中を私はパキっとした黒いスーツに黒いパンプス、後ろの低い位置でお団子にまとめられた髪型と、年頃の女にしては見るも無残な格好をしていた
食事は食べられるときに食べるスタイルしか取れず、不摂生を極めた末に腹だけプニプニというなんとも悲しいものだ
周りの女の子たちのようにお洒落をしたりダイエットに精進したいところだが、そんなことをしている時間があったら1つでも仕事を片す方が優先
職場に行けば通常業務と並行して外回りや出張等の業務をこなす
その合間に上司からはもっと仕事を取ってくるように説教をくらい、企画を提案すれば詰めが甘いだのと大勢の前で怒鳴られるのが毎日の日課になっていた
流石に毎日の仕事量に忙殺されているとはいえ、毎日上司から「仕事辞めちまえ」「必要ない」「替えはいくらでもいる」と言われれば心は感情を失う
自分の存在価値を見失いながらもお金の為に2時間弱の睡眠時間で必死に食らいついてた
上司「おいA!こっちに来い!」
「…はい」
上司「この企画なに」
「利用客が増えるかと思いまして…」
上司「これ見て客がターミナル使いたいと思うわけないだろ
お前の感性やっぱわかんねーわ」
「すみません…考え直します」
上司「それ今日の16時までな」
「はい」
周りの同僚たちの視線が痛いくらいに突き刺さる
再提出の時間まであと4時間しかないのに、通常業務は山の様にあり今日は1時間後には出張で江戸から出なくてはならない
つまり再提出まであと1時間しかない
今日も例の如くお昼ご飯は食べていないし睡眠不足で頭は回っていないフラフラな状態で企画を練り直す
この部署では上司の言葉が暗黙のルールで、できない人間は切り落とす、というか自然と消えていく
――そんなあってないような毎日を壊したのが桂小太郎だった
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作者名:るう | 作成日時:2022年9月20日 18時