次の晩 ページ14
次に高杉さんと会えるのは次の満月の晩
つまり、来月まで会えない、ということだ
でも満月ではない今日はいた
きっとこの場所は彼のテリトリーなのだろう
だとしたら本当に明日もいるかもしれない
危険を冒してまで会いに行くこともない、とさっきまで自制できていたのに
明日も来てみようかな、と考える私には "普通" "平凡" というこれまで纏っていた私を表す言葉が随分と綺麗に見えて仕方ない
これまでの人生においてこんな感情は生まれて初めて
なのに結構冷静
…いや、冷静な人間だったら明日も、なんて思わないか
それに高杉さんはテロリストと聞く
あの雰囲気からも主人よりも過激派だ
「だめだ、そんなの良くない」
自分に言い聞かせるようにわざと声を出す
脳内会議だけだと圧倒的に高杉さんに会いたいが賛成多数で勝ってしまう
頭では理解できても身体までは理解してくれなかったのか、肩にかかる羽織にそっと触れ、洗濯をしたはずなのにいまだにある残り香を鼻腔に届ける
「帰らなきゃ」
――小太郎さんのところに
いつまでもここにいてしまいそうな私を奮い立たせるための言葉をまだ残る倫理観がかけてくる
その言葉が私の胸を抉り、羽織を脱ぐ
私は俗にいう人妻なのだと再認識することとなった
夫以外の男性とどうこうなろうと思うこと自体がおかしいんだ
もう会わない方が賢明だと分かりきっている事実をつらつらと並べ、帰路に就く
次の満月の晩を楽しみにしている自分を押し殺すことに成功した私を褒めてほしい
そうでもしないと私はまた明日の晩も期待に胸を膨らませて出掛けてしまうに違いない
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作者名:るう | 作成日時:2022年9月20日 18時