満月 ページ2
3月某日
隣で主人が "ぬー、ぬー" と不思議な寝息を立てた頃、私は布団から身体を起こして寝室をそっと抜け出す
厠に行くわけでも、喉が渇いて水を飲みに台所に行くわけでもなく、草履を履くために玄関へ向かう
扉を開ける音を最小限にするべくゆっくりと慎重に横に引く
もし主人にバレたら…と思うと緊張感が扉を開ける手に重圧を与える
何とか家の外に出られると安堵したのも束の間、ひゅぅっと春と呼ぶ季節にはまだ肌寒い風が私の身を纏う
主人からプレゼントで貰った淡い水色の薄い寝間着のまま外に出たからだと気づいたが
羽織を取りに帰るにはリスクが大きすぎるためこのまま夜道を行くことにした
昼間はその辺を野良猫が横行しているのにその猫の声すらない夜の道
目的地もなく道が続く限りただ真っ直ぐに歩む
見回りをしている警察にでも見つかったら補導されるだろうか
見つかってはならない、という緊張感が狂い、身体の奥底がきゅうきゅうと疼き快楽に変わる
歩みを進めていくと心にゆとりができて夜空を見上げると大きく鋭い輝きを放つ満月が浮かんでいる
…満月をみるのなんて久しぶり
何の目的も理由も持たない平凡すぎる主婦がこんな夜更けに徘徊をしているのか
それは、何の不自由のない暮らしにただ少し退屈になっただけ
そんな贅沢でちっぽけな理由
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作者名:るう | 作成日時:2022年9月20日 18時