そして私はまた、最低な朝を迎える (ページ38)

今日:9 hit、昨日:14 hit、合計:95,331 hit

揺らぎページ38

.

気付けばあれから数ヶ月が経った——

私と道枝くんはというと、とても順調で
何も問題なく、この数ヶ月を過ごしていた。

道枝「あ、A…先輩、だった。笑」

「ねえ、それもうわざとだよね？笑」

道枝「わざとちゃうよ〜」

「オフィスでは敬語にすること〜」

道枝「はい〜笑」

付き合い出してから、良い意味で道枝くんは少しくだけた
今までは控えめにしてたんだろうなってのが分かるほどに顕著に雰囲気が変わったので、周りが私と道枝くんが付き合ってるのではと察するのに時間はかからなかった

同僚「そっかぁ〜道枝くんが勝ったのか〜〜」

「えっ？」

同僚「ほら、長尾くんと道枝くんの同期組、2人してAに気がありますって感じだったからさ〜〜」

「･･････違うよーそんなんじゃないって」

そんな話を同僚にされてる中、
話題に上がったその１人と扉越しに目が合う

その視線は交わったまま
まるで捕らえられたみたいに離せない———

同僚「A？どしたー？」

「あっ、いや、なんでもない…！」

そう、１つだけ私には問題があった。

・
・
・

道枝くんと付き合い出して数週間経ったとき
会社で長尾くんと2人きりになるタイミングが出来てしまった。

無意識に避けてきていたのに、
現実はそう甘くはない

会議室で2人で作業をする時間
沈黙を破ったのは長尾くんの方だった

長尾「･･･話、してもええかな」

「････っ」

あの日以来、耳に響いた声。
その声で蓋をしようとしたものはあっさり全部蘇ってきて、思わず身体が強張った

声のする方に視線を向けることが出来ない
それは視線を交わすべきじゃないと咄嗟に身体が反応したから———

でも、そんな私の抵抗も無意味で、そっと私の頬に手を添えて半ば強引に視線を合わせてきた長尾くんはゆっくり口を開いた

長尾「最後に、思い出くれへん…？」

「最後…？思い出…？」

長尾「そう。最後。先輩との、思い出。」

真っ直ぐ向けられた視線はとても真剣で、でも切なくて…
あんなことがあって嫌になってもおかしくないのに
拒絶反応どころか、そのまま手を伸ばしてしまいそうになるこの感覚にとても動揺する

私は今、道枝くんと付き合ってるんだから——

そう自分に言い聞かせながらも
気付けば長尾くんから目が離せなくなっていた。

.