9話 ページ10
「政府から、ここに調査が入りませんでしたか」
「……調査、ですか」
堀川様が首を傾げた。
和泉守様も、同じように首を傾げていた。
「……政府の調査は来たよ」
スッと障子が開いた。
そこに立っていたのは、見知らぬ男性だった。
そして、和泉守様と同じような羽織を身につけていた。
「大和守さん！」
「まだ、万全じゃあねぇだろ！」
堀川様がその男性を見た途端に、そう叫んだ。とても驚いているようだ。
和泉守様は、即座に立ち上がると男性の肩を支えるように掴んだ。
「まだ動くなって！」
「このくらい、大した傷じゃないよ……痛たた」
和泉守様は焦りからか、口調が荒くなった。
和泉守様に対して、男性は小さくそう呟いた。
だが、傷が痛むのかその場にしゃがんでしまった。
堀川様が流れるような動作で、同じように男性の隣にしゃがんだ。
「やっぱり、まだ動けねぇじゃねぇか！」
「兼さん、落ち着いて」
「けどよぉ……」
声を荒げる和泉守様を、堀川様が宥めた。
和泉守様は落ち着きを取り戻したが、まだそわそわとしていた。
よほど大和守様が心配なのだろう。
堀川様は、慣れた手つきで近くの戸棚から包帯を取り出した。
「……大和守安定。扱いにくいけど、いい剣のつもり」
包帯を巻かれながら、男性は僕に向かってそう呟いた。
「大和守様、ですね。僕はAと申します」
僕がそう言えば、大和守様は嬉しそうに笑みを浮かべた。
堀川様によって、大和守様の肩甲骨を一周するかのように包帯が巻かれた。
どうやら、大和守様は相当な怪我を背中に負っているようだ。
和泉守様と堀川様が心配するのも、当然だ。
「……聞かねぇのか」
「何をですか？」
ふと、此方をまじまじと見つめる細められた瞳と目が合った。
和泉守様が、此方を見ていたのだ。
僕は、ビックリして目をぱちくりさせた。
「……いや、なんでもねぇよ」
和泉守様は僕から目を逸らすと、素気無くそう言った。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
