離れに住む刀剣男士達 (ページ9)

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8話ページ9

「主さん」

僕が和泉守様の剣幕に黙りこくると、堀川様が真剣な眼差しを向けた。

「主さんは僕らにとっては既に、主として相応しい存在なんですよ」

堀川様は優しく諭すように言った。
それに反して和泉守様は、ぶっきらぼうに言い放った。

「三日月に会っただろう」

和泉守様は拗ねているのだろうか、いやきっと、不満なのだろう。
僕が遠回しに「主なんて、まだ気が早い」と言ってしまったから。
和泉守様と堀川様には、確固たる理由があってそう呼んでくれたはずなのに。

「……確かに、三日月様にはお会いしました」

でも、それだけだ。会って少しだけ話をした程度だ。
仲が良いわけでも、ましてや「主」と呼ばれたわけでもない。
ただ、強いて言うならば……

「その時に、タブレットを貰わなかったか」

「……はい。此方にあります」

タブレットを貰った。
僕が「刀帳」を見るために使用した物だ。
答えてから、ふと疑問が浮かんだ。

「何故、タブレットの存在を知っているのですか」

僕は一度もタブレットを和泉守様に見せていない。勿論、堀川様にも。
和泉守様は、動揺する様子も無かった。
むしろ、流暢にこう答えた。

「……そりゃあ、そのタブレットは審神者専用だからな」

おそらく、僕よりも前の審神者も使っていたのだろう。
和泉守様は、前の審神者によって顕現された刀剣男士だ。
一度は、前の審神者がタブレットを弄るのを見ているのだろう。

「主さん、貴方よりも前の審神者さんが今、何をしているのかを知っていますか」

僕は力無く首を横に振った。全く知らないのだ。
前の審神者の性別ですら、僕は知らない。
ただ、ここが「ブラック本丸」であると、来る直前に聞かされただけだ。

「そうですか……前の審神者さんは、行方不明なんですよ」

だから、僕らも主さんと同じで何も知らないんです。
ほんの少しだけ、残念そうに息を吐くと堀川様はそう付け足した。

「行方、不明ですか……」

「ああ、前の審神者は消えた。泡が弾けたみたいにな」

和泉守様は、過去を思い出すかのように静かに目を瞑った。

「前の審神者は、外見に拘らず横暴な女だった」

聞けば、彼女はある刀剣男士を求めていたのだと言う。
そして、そのために遠征と鍛刀を繰り返した。
手に入れた山のような資材を手入れではなく、全てを鍛刀に回していたらしい。

「……少し、待ってください」

僕は、和泉守様が語るのを止めた。
ほんの一つだけ、腑に落ちない点があったのだ。