28話 ※12月12日に加筆しました ページ29
「ついて参れ」
三日月様はそう言って、一歩踏み出した。
踏み出したところで立ち止まり、振り向いた。
僕は、三日月様に着いて行こうと足をすすめた。
「お待ちくだされ、主殿」
「主君、僕といち兄も行きます!」
振り返れば、水色と桃色が並んでいた。
一期様と、秋田様だ。
僕が本丸に来た時には、鋭かった一期様の金の瞳は、優し気に僕を見ている。
秋田様も、一期様に向ける眩しい瞳を僕に向けている。
僕を主と認めるのには、余りにも早すぎるのではないか。僕は眉を顰めた。
「……主」
絞り出したかのようなか細い声が、一期様の後ろから聞こえた。いや、正確には一期様の背中から聞こえたのだ。
「けほっ」
声の主は大和守様だった。
正気に戻れたのか、僕を睨みつけていた瞳は苦し気に僕を見ている。
大和守様が何か話そうと息を吸うと同時に、咳が飛び出した。
今にも血を吐いてしまいそうな咳だった。
「大和守殿。傷は深いのですぞ」
「……ごめん」
一期様が、背負っている大和守様を咎めた。
大和守様は小さく謝罪の言葉を紡ぐと、一期様に背負われたまま寝入ってしまった。
「……まだだね」
「そうだな、国広」
堀川様と和泉守様は、大和守様を見つめている。
その表情は、和やかな場とは対照に険しい。
「ほれ、主よ」
木の札が、和泉守様が持つ刀の刀身にへばり付いた。
木で作られているのに、何故くっつくのだろうか。
「いてえっ……おい、三日月」
「三日月さん!」
和泉守様は涙を流しそうな瞳で、三日月様を睨みつけた。
三日月様は、和泉守様から視線を外した。
堀川様は、呆然と立ち尽くしていた。
しかし、和泉守様の声でぜんまいが回された人形のように声を上げた。
「主よ、これが手伝い札だ」
「……そうなのですか」
「おい!いてえって……」
三日月様は、堀川様達を振り返らなかった。
僕に声をかけてきたのだ。ビックリした。
思わず僕が相槌を打つと、和泉守様が声を荒げた。
三日月様は、それでも笑みを深めただけだった。
そうして、僕の足元に視線を落とす。
そこには、手入れ道具を入れた箱が寝そべっていた。
三日月様は、手入れ道具を箱から取り出した。
何をするつもりなのだろうか。
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作者名:うたた寝する三毛猫 | 作成日時:2022年3月9日 11時