23話 ページ24
「なるほど……私と同じように大和守殿も操っておられるのですな」
一期の瞳が細められた。
確かな怒りがその瞳には浮かんで見えた。
「うるさい！」
図星だったのだろうか、敵は一言だけ乱暴に吐き捨てた。
先ほどよりも、より一層一期と敵の交戦は激しさを増していた。
その近くでは、Aによって三日月が手入れを受けていた。
今は、刀身を打ち粉で下から上へと打ち、粉をつけている最中だ。
「……その手入れ道具は、離れの物か」
三日月は、Aの足元に置かれた木の箱を指差した。
Aは手を動かしながら短く答えた。
「そうですね」
「なるほどなぁ、非常用の物か」
ぷつり、と会話が途切れた。
Aは打ち粉を箱に戻し、拭紙を取り出した。
三日月はその様子を黙って見つめていた。
「終わりましたよ」
Aは、手入れ道具を箱に仕舞った。
三日月の傷は、もうすっかり塞がっていた。
「……すまんな、ちと待ってはくれないか」
「三日月様？」
立ち去ろうとしたAを三日月が呼び止めた。
「おぬしに尋ねておきたいことがある」
「何でしょう」
何を尋ねたいのだろう。
Aは少し考えたが、首を傾げた。
三日月は、Aの背丈に合わせてしゃがんだ。
「俺たちがここへ来る前に、何があった」
三日月は真剣な瞳でそう尋ねた。
Aは思わぬ質問に戸惑っていたが、短くこう答えた。
「急に、大和守様の様子がおかしくなりました」
「急におかしくなった、とな？」
三日月は不可思議そうに呟いた。
気にかかる点があったのだろうか、暫く考え込んでいた。しかし、解消されなかったのかAに尋ねた。
「ふむ……その直前に何を話していたか、覚えておるか」
Aは、記憶を遡るまでもなくすぐに答えた。
その会話がはっきりと記憶に残っていたからだ。
「加州清光様について話していました」
「……それは、確かか？」
途端に、三日月の表情が険しくなった。
Aは、三日月の顔を見て不安にかられたが、三日月は話の続きを促した。
「……大和守様は、僕を斬ろうとしていました」
Aの瞳は悲しげに震えており、声もか細くなっていた。
「ほう……そうであったか」
三日月は、興味深そうに目を細めた。
Aは三日月の瞳を見つめながら、続けて話した。
「……なので、和泉守様は僕と堀川様を逃したんです」
Aの頭の中には、その時の記憶がよみがえっていた。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
