22話 ページ23
三日月も、三日月と刀を交えていた相手も、目を見開いて固まっていた。
驚きのあまり、言葉が出せなかったのだ。
ただ一人、和泉守だけはAの方をちらりと一瞥したのみで、瞳を閉じてしまった。
その動作は、不自然なくらいにスムーズだった。
どうやら、和泉守はあえて沈黙を貫いているようだ。
「……いい加減にしてください！」
がたん、と障子が乱雑に動かされた。
そこには息を荒げ、激しい口調で怒りをあらわにした堀川が立っていた。
普段は冷静であろうと努める堀川が珍しい。
和泉守は目を開くと、堀川を見据えた。
堀川は怒りに任せて一歩踏み出そうとした。だが、それは阻まれた。
その瞬間を狙ったかのように、Aが動いた。
小動物のような素早い動きで、Aは堀川の背後へと回り込んだ。
Aの小さな手が堀川のカフスを掴んでいた。
堀川は、カフスを掴むAの手をじっと見つめていた。
まだその瞳は、まだ怒りで燃えていた。
「堀川様！」
Aは、堀川の名を叫んだ。
堀川は肩をビクリ、と揺らした。
「……主さん」
我に帰った堀川が、Aの金色の瞳を澄んだ水色の瞳で見つめた。
「堀川さん、行きましょう」
堀川が振り返れば、秋田が引き締まった表情で立っていた。
「そうだね。もう、出遅れてるみたいだしね」
歩き出した堀川と秋田の耳に、Aの声が届いた。
「堀川様、秋田様……僕も行きますね」
Aは踵を返した。堀川と秋田はそれを見送ると、顔を見合わせて大きく頷いた。
再び、刀をぶつけ合う音が響き始めていた。
呆然とした様子で、こちらを見つめていた敵が又もや動き始めたのである。
「次から次へと……しつこいな」
疲れと怒りを滲ませながら、敵は顔を顰めた。
対する相手は、軽快な身のこなしで敵の刃を避けていた。
いや、おそらく敵の刀を振るう速さが、確実に遅くなっていたのだろう。
「何でだよ！何でぴんぴんしてるんだよ……」
敵は、刀を下ろした。疲れからか、荒い呼吸を繰り返した。覚束ない足取りで、少しずつ相手との距離を縮めた。
それでも、相手を睨みつける眼力を緩めはしなかった。
「主殿のおかげですな」
睨みつける敵に対して、すまし顔で相手は答えた。
そんな相手の様子に苛立ったのか、敵は声を張り上げた。
「せっかく弱らせたのに、あの審神者台無しにしやがって……！」
苛立ちに任せてそう吐き捨てた敵は、自身で墓穴を掘ったとも知らずに地団駄を踏んだ。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
