21話 ページ22
刀を弾いては、また弾くを繰り返す。
三日月は防戦一方で、攻撃をしようとはしなかった。
「……ねぇ、それで時間稼ぎのつもり？」
敵は、呆れたようにため息をついた。
かと思えば、敵はもう既に三日月の眼前で刀を振るっていた。
咄嗟に三日月は歯を食いしばった。
心なしか、敵の刀は先程よりも速さを増したかのように三日月には見えていた。
押される。
既の所で、三日月は敵の刃を捉えて防いだ。
だが、刀を弾き続けていた三日月には疲れが見え始めており、息が上がってきていた。
「……そろそろ、限界なんじゃない？」
敵は笑みを深めると、三日月に追い討ちを掛けるかのように力強く地面を蹴った。
「はははは」
そんな状況を理解した三日月は、笑っていた。
だが、敵はそんな三日月に全く怯む事なく、真っ直ぐに三日月の方へと向かって来ていた。
「いや……笑ってる場合ではないかな」
三日月は見惚れるような笑みを消し去ると、痛みからか、顔を顰めた。
三日月は、中傷となっていた。
一撃だ。おそらく、あと一撃受けてしまえば。
「折れるだろうなぁ」
三日月は、他人事のように呟いた。
敵の次なる攻撃は、おそらく防げないだろう。と三日月はどこかで理解していた。
「折れたくはない」
三日月の口から、本心が漏れ出た。それには三日月自身も驚いたのか、目を瞬かせた。
刀を握る手も、三日月の心を代弁するかのように、わなわなと震えていた。
敵がだんだんと三日月に迫る中で、三日月は刀を力強く構え直した。
「……そうか。俺は、悔しいのか」
きっと、俺は悔しいのだ。
敵に、少しの傷も付けられなかったという事実が。ただの刀として、悔しかったのだ。
三日月は納得した様子で、敵の刀と己の刀をぶつけた。
敵の方が強かったのか、三日月は弾き飛ばされてしまった。
もう、三日月には立ち上がる力は残されていなかった。
けれど、三日月に後悔はなかった。
敵は、ゆっくりと三日月の方へと歩みを進めた。
三日月は黙ってその様子を眺めていた。
「……これ。傷付いたんだけど」
不機嫌さを露わにした敵は、頬を指差した。
そこには、僅かな切り傷が出来ていた。
「いいの？この身体、大和守安定の物だけど」
怒りからか、体を震わせる敵に対して答えたのは三日月の声ではなかった。
「……問題ありません。僕が治しますから」
この本丸に来たばかりの、Aの声だった。
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
